新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カリブ海でのCIA工作

 プリンス・マルコには、どうしてもお金が必要な事情がある。オーストリアのリーツェンの城の復旧が(CIAからのお金で)進み、ようやく一部で住めるようになったのだが、まだまだお金が必要なのだ。その上フィアンセのアレクサンドラ(毎回名前だけ出てくる美女!)は贅沢好きときている。


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 CIAがカリブ海の島国ハイチで反政府派の男らを支援し政府転覆を図ろうとするにあたり、マルコを反政府派の糾合のために現地に送ろうというプランが持ち上がった。政府/反政府とは言うけれど、ハイチは暗黒組織<トントン・マクート>の黒幕一族が支配している国であり、反政府派の男も元は<マクート>一味の有力者だった。
 
 その男に肉親を虐殺された過去を持つ女闘士がいて、こちらも反政府の旗手なのだが当然仲がいいわけがない。この2人が手を組んで放送局を占拠し市民に訴えかければ、付近に待機している米軍海兵隊が上陸し2人を支援して「親米政権」が樹立できるというのがそのシナリオ。
 
 これは隣の国キューバで実際に行われた「ピッグス湾事件」を彷彿とさせる。CIAが亡命キューバ人を組織化して祖国に上陸させたものの彼らを見殺しにせざるを得なくなり、のちの「キューバ危機」へとつながっていく。2人に手を組ませるというあり得ないようなミッションに、さしものマルコも取り合わない。しかしそこで提示されたのが、法外な報酬50万ドル。通常マルコの1ミッションは10万ドルが相場で、今回は手付金だけで10万ドル、成功報酬40万ドルというものだ。
 
 そんなわけで、いつも命の危険にさらされるマルコではあるが、一段とリスクの高いミッションを背負ってハイチに出向くことになる。第一その反政府派の男は<トントン・マクート>に追われて地下に潜っており、居場所を探し出すことさえ難しい。現地のCIA支局長も大使館も、決して協力的ではない。ここから後は、現地の原始宗教である「ブードゥー教」の怪しげな影のもとで、残虐な手段を使う暗黒組織や美女が乱舞することになる。多くの血が流れ何度も絶望に襲われながらマルコは目標の2人を放送局占拠に向かわせることには成功するのだが・・・。
 
 マルコへのミッションは、総じて防御的なものが多い。今回は珍しく攻撃的なものだ。だからこそ、いつもの5倍の報酬が用意されたわけだ。巻末の書評によれば「スーパースパイであるマルコも失敗することがある。失敗例も書くのが作者ヴィリエの凄いところ」ということだが、ミッションの内容を考えれば「成功」のシナリオは書きづらいテーマである。このテーマを選んだ段階で「失敗譚」になることは決まっていたように思う。
 
 1971年発表の本書はその時代、大小の攻撃的なトライアルをCIAがしていたことを窺わせますね。