新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マルコ殿下のクーデター計画

 ザンジバル島は、タンザニア沖のインド洋に浮かぶ沖縄と同じくらいの面積を持つ島々である。本書の発表の1973年に先だつ1963年にイギリスから独立、タンザニアと合併しながら強い自治権をもつ「ザンジバル革命政府」が統治している。現在の人口は100万人あまり、アフリカ人・アラブ人・インド人が入り混じって暮らしている。

 

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 独立・合併後、革命政府が強い自治権をもって10年近くたったザンジバルに、中国の影が差してきたというのが本書の背景である。革命政府のムケレ大統領は独裁者だが、アフリカ人で文盲である。本書によるとアフリカ人は一般に教養が低く、行政はもちろん産業振興や企業経営においてもアラブ人の力を借りる必要があった地域なのだという。
 
 そこにインド人がやってきて(99×99の国だし)アラブ人を駆逐、富を誇ったアラブ民族は悲惨な生活を強いられている。しかし、今度は中国人がやってきてインド人が迫害されかけている。中国人は個々の能力もだが、政府の強力なバックアップがあって組織力でこの島に進出している。背景は中国政府のインド洋支配、50年近く後の現在でも通用しそうな話だ。
 
 本書はマルコ・シリーズの中でも異色の作品と思う。ある事件の発端を描く第一章がなく、いきなりマルコが登場(普通第二章から)するだけでなく、やたらマルコが積極的なのだ。いつもはお金のためいやいやCIAに言われて現地に赴くのだが、今回は現地のCIAをけしかけてクーデター計画を推し進め最後は単身ムケレ大統領暗殺のため島に潜入する。
 
 ザンジバルタンザニアの首都ダルエスサラームの対岸に見えるのだが、警備が厳重で「近くて遠い島」である。ムケレ大統領とその副官カトー警察長官の残虐ぶりはすさまじく、島民を虐待したり虐殺して楽しんでいる。全く言語道断の奴らだが、だからといってゼニカネ抜きで命を懸けるマルコというのはあまり見ない。
 
 黒人ゲリラ兵を120人雇い、DC9に満載して営業の終わった空港に侵攻させるというマルコのクーデター計画は、裏切者によって頓挫する。その過程で多くの血が流れ、例によってほとんどの登場人物が死んでゆく。
 
 いつものように救いのない話なのですが、こんなに血が流れるのにマルコ殿下だけは無事だ。「命がいくつあっても・・・」というのは、彼とゴルゴ13のための言葉だと思います。