新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シルヴァーマン博士自身の事件

 ロバート・B・パーカーのレギュラー探偵スペンサーはボストン中心に活動するタフガイだが、恋人(知り合ってから10年以上経ってもそのままだが)スーザン・シルヴァーマンなくしては、力を発揮できない。学校のカウンセラーをしていた彼女がハーヴァードの博士課程に進み、精神科の医師を目指した時期に二人の関係が希薄になった。

 

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 インターンでワシントンDCに滞在する彼女のところに、捜査にかこつけたスペンサーが通うこともあったのだが、彼女はハーヴァード卒業の日に別の男と西海岸に行くことを告げる。タフガイのはずのスペンサーはタガがはずれたようになり、何をやってもダメな男に成り下がる。うかつにもチンピラに撃たれて、生死の境をさまよう羽目にもなる。
 
 幸か不幸か、スーザンが付いて行った男は偏執狂で彼女を監禁してしまったことから、スペンサーは相棒ホークの助けを借りて彼女を救い出す。西部の街ひとつを相手に暴れまくったスペンサーは、すっかり自分を取り戻していた。
 
 本書では黒人の中年女性を裸にして縛り上げ、最後は射殺するという変質者が登場する。すでに4人を殺していて、自分は警察官だという文書も送ってくる。捜査主任クワーク警部補は警官以外の捜査員も必要だと判断、スペンサーに協力を求めメディアもそれを察知する。
 
 メディアはスペンサーの素性や身辺を報道し、スーザンの名前も新聞に出てしまう。その結果連続殺人犯と思しき影がスーザンの診療所兼自宅にちらつくようになり、事件は「シルヴァーマン博士のもの」になってしまった。犯人はスーザンの患者の中にいると睨んだスペンサーとホークは、クワーク警部補らと患者たちの身辺を洗いはじめる。
 
 タフガイスペンサーと暗黒街の用心棒ホークのコンビが荒っぽく事件を片付けるのがこのシリーズの売りでもあるのだが、名作「初秋」にあるように若者の心を救う優しい面もある。本書はその後者の方で、スーザンの精神科医としての矜持がよく表れています。