新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

中国人不法入国者の街

 ロバート・B・パーカーのレギュラー主人公スペンサーのホームグラウンドは、ボストン。アメリカ合衆国発祥の地とも言える、東海岸の港町だ。僕も10余年前、年間3回通ったことがあり、当地で食べるエビやカニ、あるいはクラムチャウダーなどの海の幸を楽しんだことがある。

 
 1994年発表の本書では、スペンサーたちはボストン近郊の小さな港町ポート・シティで起きた一連の事件の解決を期待される。この街、Google-MAPで調べたが見つけることは出来なかった。恋人スーザンが関わっている劇団がポート・シティで公演をしていて、スペンサーも観劇している目に前で男優が射殺される。事件の背景を追うスペンサーの前に、ポート・シティに巣食う中国人マフィアが立ちはだかる。
 
 元々は欧州から来た移民が漁業をしていたポート・シティにいつごろからか中国人が港湾労働者として不法就労しはじめ、今では人口的にもメジャーになっている。台北出身の留学生メイ・リンを通訳兼道案内にして、スペンサーは中国人不法入国者たちの社会を探り始めた。今回は相棒ホークとガンマンのモリスが、用心棒についてくれた。
 
 スペンサーの得意技は「嗅ぎまわること」。これが気にいらない勢力がスペンサーを脅したり襲ったりするが、スペンサーは屈しない。二人の用心棒も凄いタフガイだし・・・。その過程で事件解決の糸口が見えてくるのはいつもと同じだ。

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 本書には、中国本土から香港やメキシコを経由してアメリカに不法入国する中国人の行動や生活が描かれている。狭いアパートにすし詰めになって暮らし、入国の時に作った膨大な借金を返済しながら本国にも仕送りをする厳しい生活だ。それでも彼らは、中国本土にいるよりはいいと思っている。
 
 事件は射殺された男優と同じ劇団の女優の誘拐や、中国人マフィアの親分格の男が撲殺された事件につながり混沌としてくるが、スペンサーは行方不明の女優の住まいを調べて解決のヒントをつかむ。
 
 トランプ先生が怒っている不法移民はもうこのころから米国の社会問題になっていたようだ。移民を公式に認めていない日本でも、不法入国者や留学等で入国して行方不明になってしまう人も多いと聞く。彼らの暮らしは、本書に描かれているものに近いのかもしれませんね。