新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Marche ou mort / March or die

 第二次大戦であまりにもあっけなく降服してしまったので、フランスは「戦争に弱い国」という印象があるかもしれない。しかし、大陸制覇に一番近づいたのは、1800年過ぎのフランス皇帝ナポレオンである。グラン・ダルメ(大陸軍)を率いてイベリア半島・地中海・ロシアにまで侵攻している。
 
 しかも、フランスは第一次大戦戦勝国(あまりに大勢の犠牲を出したので戦傷国とも言えるが)だった。膨大な国費を投じて国境に巨大要塞「マジノ線」を構築したし、先進的な兵器であった航空機産業を多く抱え「航空大国」として第二次大戦に臨んでいる。
 
 いかに強力でも動くことにできない要塞は、後方に回り込まれてしまえば役に立たない。多くの企業が個別に戦闘機・爆撃機偵察機を軍に納入していたので、操作性や部品もバラバラ。パイロットや整備員、関連設備の運用で非合理的な負荷を負うことになった。少数だがよく訓練されたドイツの機甲師団は、マジノ線を迂回してフランスに侵攻したし、Bf109(メッサーシュミット)に統一されていたドイツ空軍はフランス空軍を圧倒した。

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  フランスは第二次大戦後も、インドシナアルジェリアで戦った。国と国とがまともにぶつかり合う戦争ではなく、宗主国として独立を企画する勢力を押さえつける紛争が中心になってはいたが。今でもフランスはいくつかの植民地を持っていて、そこの治安活動にあたっているのは「外人部隊」である。前歴を問わないため、多くの戦争のプロが入隊し犠牲ともなって、フランス政府に貢献している。何人かの日本人も入隊していたという。
 
 旧日本軍の将校が、第二次大戦後もインドシナに残りフランス外人部隊に入隊して、インドシナアルジェリアなどで戦い、ド・ゴール大統領暗殺も企画するという壮大な叙事詩がある。作者の柘植久慶は、非常にリアリティのある戦術級小説を多く書いた。そのエッセンスが「前進か死か」全6冊に集約されている。
 
 題名はフランス外人部隊のテーマでもあり、日本軍鷲見少尉がパルミラ中尉と名を変え、ディエンビエンフーで戦い敗れるまでが第1巻で描かれている。ディエンビエンフーベトナム戦争の初期段階のハイライトで、装備も訓練も十分で堅固な陣地に拠るフランス軍を、ゲリラ部隊が包囲殲滅した戦いである。
 
 第一次大戦は、欧米型の先進国だけの戦いだった。しかし、第二次大戦は多くの「植民地」も戦場となり、枢軸側が降服したのちこれらの地域が「支配の空白地帯」とする結果を招いた。インドからフィリピンにいたる広大な地域で独立国だったのはタイ王国だけだったが、地域全体が独立運動を激化させていく。第二次大戦で疲弊した旧宗主国はこれを押さえつける余力を持たなかった。
 
 植民地を上手に独立させ連携をある程度保ったイギリスよりは、フランスの対応はまずかったのかもしれない。いま問題となっている地域であるシリアやアルジェリアは、フランスの植民地だったところだ。7月14日パリ祭の夜、ニースで80名以上が犠牲になるテロが起きた。ベルギーやドイツへもテロは拡散しているが、やはりヨーロッパの「主戦場」はフランスのようだ。それは、この70年の歴史を見ればある程度納得できる。