新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

黒人街の憂鬱

 

 ボストンにも黒人街があるようだ。僕が通っていたのは2006年ころの短い期間だったから時期が違うのかもしれない。ここにあるような危険な場所は、教えてもらっていない。本書の発表は1992年、そのころは一番荒んでいた時代だったのかもしれない。

        f:id:nicky-akira:20190428124137p:plain

 
 黒人街の一角ダブル・デュースは少年ギャング団の縄張りの中にあり、暴力犯罪や麻薬、銃器があふれる危険地帯である。14歳の少女デヴォナは、産んだばかりの娘クリスタルを抱いてダブル・デュースを歩いていた。父親は分からない娘だが、大きくなれば年の差が少ないので姉妹のように付き合えるだろうとの夢を見ながら。
 
 しかし少年ギャング団はデヴォナの恋人に報復する為、デヴォナに12発の9mm弾を撃ち込んだ。彼女の胸を貫通した3発は、クリスタルの小さな心臓にも命中した。幼い2人の殺害に怒ったホークは、ダブル・デュースの大掃除を決意しスペンサーを誘う。二人は周囲がとめるのも聞かず、ギャング団のリーダーであるメージャー青年と対峙する。
 
 メージャーの経歴も凄い。母親は15歳で彼を産んだが、幻覚剤の中毒であり、メージャーも生まれながらの中毒患者である。11歳ですべての親族を失い、18歳の現在までに様々な容疑で38回逮捕されている。デヴォナもメージャーも、黒人街で黒人に生まれたゆえ過酷な人生を選ばざるを得なかったわけだ。
 
 短い章立てでダブル・デュースでの緊迫シーンとスペンサーとスーザンの愛の巣が交互に描かれるが、本編の主人公はホークと言ってもいい。ホークも黒人街生まれで、才覚と腕っぷしでのし上がり、高級車を乗り回すまでになった。メージャーから見ると、ホークは当面の敵ではあるが「成りたい目標」でもあるのだ。
 
 「初秋」はスペンサーが同じ白人のなよっちい少年ポールを鍛える話だったのだが、本編はそれに似た面も持っている。複雑な思いを秘めて、メージャー一派とホーク&スペンサーは対決することになるのですが、いつもの爽快感あるアクションより黒人街の憂鬱がより強い印象として残った作品でした。