新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

東シナ海、2017

 米中対立に台湾の来年の総統選挙もからんできて、東シナ海の緊張は緩むことはないのだが、世界の注目が集まるこの海域を舞台にした軍事スリラーをぽつりぽつり見かけるようになってきた。

 

 本書の発表は2015年、まだアメリカは安定しており中国は軍拡を続ける油断のならない国(これは今でも大体正しい)ながら、それを隠そうともしなかった頃である。中国が突如尖閣諸島(中国名では釣魚島)周辺の海底資源発掘を始めた、という設定で物語がスタートする。

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 時に2017年5月、米軍は実際に安倍・トランプ会談でも確認したように、横須賀にいる空母戦闘群を派遣する準備にかかるのだが懸念がひとつあった。それは中国が開発し実戦配備したという、Wu-14誘導弾の存在である。この弾頭はマッハ10という驚異的な速度を持ち、これを撃退する手段はない。Wu-14一発で、非常に高価な航空母艦を葬ることができるという設定である。
 
 20世紀前半、国力とほぼ同義語だった「保有戦艦の質×量」という指標は、ソードフィッシュのタラント軍港空襲や、マレー沖海戦でイギリスの新鋭戦艦が沈んだことで崩れ去った。その後は、核兵器や潜水艦、航空母艦などが戦艦に替わって「指標」になってきたのだが、これらにもいつかはその座を降りる日がやってくる。特に空母戦闘群については、まともに運用できているのはアメリカしかない。ロシア・中国らも航空母艦のようなものを保有しているが戦力としては疑問符が付く。
 
 その航空母艦の時代が終わるなら、その可能性のひとつはここに揚げられた「超高速誘導弾」であろう。そういう興味深い導入で始まる本書だが、架空戦記小説としてはあまり評価できない。諜報戦の一部にみどころはあるが、戦闘そのものは意外性もなくあっけない。作者はひょっとすると「政治小説」を書いたのかもしれない。日米中3ヵ国とも国内の政治闘争がある。
 
 日本の右翼政治家やヤクザも出てきて、ゼロ戦カミカゼ特攻や政治闘争に敗れたハラキリなど、冗談で書いているのかと思うところすらある。まあこれらをアメリカの普通の知識人が持つ対日認識だと考えるなら、僕らにとっても良い教科書ではありますがね。