新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

漸減要撃作戦で始まったが

 横山信義の何作目(もう数えられない)の第二次世界大戦、日米対決ものである。「八八艦隊物語」以降、よく同じテーマで数冊の連続ものを書けると思うのだが、読んでしまう方(僕のこと)もどうかしている。今回はBook-offで数カ月かけて買い溜めておいた、全8冊を年末年始の休みで読み切ることができた。

 

 何度か紹介しているが、SF的手法(宇宙人の秘密兵器を帝国海軍が手に入れる)や、突飛な国際情勢(英独はじめ世界中が米国と戦う)でない限り、日本軍に勝ち目はない。Hobby-Japanは「太平洋艦隊」というゲームを、いろいろ試した挙句「米国がいかに手際よく日本軍を始末するか」というコンセプトに変えざるを得なかった。

 

 今回作者は、いくつかの設定を入れて歴史を変える試みをした。国際情勢として日独が支援する「ロシア帝国」が、イルクーツク以東を支配してソビエト連邦と戦っていること。スターリンが弱体だからだが、ヒトラーはモスクワからムルマンスクを占領してしまっている。

 

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 加えて日本の対米開戦のやり方が違う。真珠湾奇襲ではなく、当初から考えられていた「漸減要撃作戦」で幕を開けるのだ。これは日露戦争バルチック艦隊を日本近海までおびきよせ、決定的な勝利を得た戦訓から得た作戦。米国の艦隊を、潜水艦や水雷艦隊の夜襲、基地航空隊の攻撃などで消耗させ、日本の土俵(トラック沖など)で撃滅するというもの。

 

 まあ確かに「あり得たIF」である。その結果、帝国海軍は善戦して多くの米国艦艇・航空機を葬るのだが、米国の回復力は史実通り強大で中部太平洋での競り合いが1944年まで続く。最後は両軍とも航空母艦15隻、航空機1,500機、戦艦10隻ほどをぶつけ合う大海戦で決着をつけようとする。

 

 普通なら空母艦隊の勝敗がつけばそれで終わりなのだが、作者が書きたいものは戦艦同士の砲撃戦。その演出のために、両軍合わせて3,000機の戦闘機・攻撃機の激突は「前座」である。両軍が航空戦力を消耗してしまった後は、日本の大和級と米国のアイオワ級、英国のキングジョージⅤ世級が入り乱れる砲撃戦になる。

 

 長い休暇の軽めの読み物、久しぶりに満喫しました。ある意味安心して読めるのが良かったです。おとそ気分でもね・・・。