新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

87分署もの、欠けた輪

 最後のエド・マクベイン87分署シリーズ「凍った街」を読んでから、ずいぶん時間が経った。全部で56作あるこのシリーズ、学生の頃に読んだのは30作目までくらいだった。それを数年前から少しづつBook-offで買い集めて来て読んでいるのだが、第37作「稲妻」がみつからない。


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 これに続く「八頭の黒馬」は力作として名高く、刑事たちの好敵手である「デフ・マン」が登場する作品である。この本やそれに続く数作は見つけて買ってきたのだが、相変わらず「稲妻」が買えないのでそのまま本棚でホコリをかぶっていた。
 
 それが数日前に、東戸塚のBook-offで本書を見つけてさっそく買った。このシリーズも巻を重ねるごとに分厚くなって、450ページ近くある。1984年発表の本書も、架空の街アイソラで起こった2つの事件が、並行して描かれている。ひとつは、20歳前のアスリートの娘を絞殺して、街灯に吊るす猟奇連続殺人。最初の犠牲者が87分署管内で発生したことから、キャレラ刑事とホース刑事が他の分署の応援も受けて犯人を追う。
 
 もうひとつは、連続強姦事件。10名以上の被害者が出ていて、複数回同じ男に襲われるケースも何人かいる異常さである。これには、婦女暴行捜査班のアニー・ロールズ刑事とおとり捜査官のアイリーン・バークがあたっている。
 
 アニーは初対面でコットン・ホースと意気投合、捜査の合間を縫って付き合い始める。一方アイリーンは、美人モデルの前妻と別れたクリング刑事といい仲である。頭髪の薄かったマイヤー刑事はついにかつらを付けるようになったが、仲間たちはマイヤーだと認めずシカトしてくる。
 
 本書のミステリーとしての謎は、動機である。なぜ殺人犯は陸上短距離走の選手ばかりを狙い、街灯に吊るすのか?なぜ強姦犯人は同じ女性を何度も襲うのか?人種も年齢も住所も仕事も違う被害者の、どこに共通点があるのか?
 
 2つの事件は全く独立のものなのだが、このころの米国の病理のようなものが双方の犯人の心に巣食っている。最後の50ページに2人の犯人の長い独白があるのだが、読むほどに暗い気持ちになってくる。傷ついたアイリーンと彼女を思いやるクリングの会話や、大人の恋をしている独身同士アニーとホースの休日など興味深いところはあるのだが、長くなった分少し冗長ですかね。さて次は、名作「八頭の黒馬」ですよ。