新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

87分署、皆殺し計画

 前作「稲妻」の最後に、「ヤツが帰ってきた」と87分署の刑事たちが青くなるシーンがある。すでに3度、キャレラ刑事たちを窮地に陥れ、一度は主人公のキャレラに散弾銃で重傷を負わせた男「デフ・マン」が帰ってきたのである。

 

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 そもそも「稲妻」の冒頭から、今回の事件の奇々怪々さゆえに「こんなわけの分からないことを仕掛けてくるのがデフ・マンかもしれない」という危惧を刑事たちは抱いていた。それが彼の関与なしに事件が解決したと思った矢先、彼からの挑戦状が届いたのだ。
 
 8頭の黒馬と耳に「進入禁止」記号を重ねた絵が描かれた手紙がその挑戦状。耳の絵については「デフ・マン」の署名替わりなのだが、馬の方は意味不明だ。その後順不同に、2本の警棒、3組の手錠、4個の制帽、5個の携帯無線機、6個の警官バッジ、7枚の手配書、9台のパトカー、10枚の刑事部屋報告書、11丁の警官用拳銃、12匹の豚の丸焼きの絵が送られてくる。
 
 刑事たちは、クリスマスの寒空の下、公園に捨てられていた若い女の射殺体の事件を追うのだが、本筋のはずの殺人事件より、「デフ・マン」のメッセージの方が気になる。「デフ・マン」の本業は強盗、特に銀行強盗を得意としている。死体となった女が元銀行員だったことがわかり、この件も「デフ・マン」の仕業ではないかと思われた。
 
 残り100ページを切ると、それまでのクリスマスの甘くけだるいムードが一変し、刑事部屋に切り落とされた耳が届き、続いて2本の警棒、3組の手錠、4個の制帽・・・が1日に1種類送られてくる。いずれもアイソラの他の分署から盗まれたものらしい。さらに警察の厩舎で黒馬ばかり8頭が射殺され、翌日には9台のパトカーが爆破され警官に死傷者が出る。そして、12匹の豚(Pig)の意味は・・・。
 
 隠語で警官のことを「Pig」というようで、「デフ・マン」は87分署全体を吹き飛ばす爆弾をしかけていた。キャレラたちをローストするために。
 
 書評にあるように「最高傑作」かどうかはわからないが、シリーズ中でも指折りのサスペンスを醸しだした作品である。「デフ・マン」のキャレラたちに対する暗い執念が怖ろしいのだが、本業の銀行強盗はまたも失敗してしまう。極めて凝った仕掛けをするエネルギーをもっと本業に向けていれば、楽に稼げたと思うのだが。まあ、彼は刑事たちの「好敵手」が本業なのかもしれませんね。