僕が子供の頃にはルパン三世もコナン君もいなかったから、少年たちがよく読んでいたのはホームズもの、ルパンもの、明智小五郎と少年探偵団の活躍する子供向けの本だった。挿絵も多く、漢字が少なく、もちろん抄訳たっだと思われる。
何冊か読んだはずなのだが、内容を覚えていたのは1冊だけ。それが本書「奇岩城」。今回読み返してみて、なぜ本書だけを覚えていたのか理由がわかった。それは、
・主人公が高校生のイジドール・ボートルレ
・海岸にそびえ立つ尖塔状の城砦が舞台
・そこに至る道を拓く、羊皮紙上の暗号文
という特徴があったからである。
特にボールトレ君の存在は大きい。子供向けのマンガ雑誌を見ればわかるように、主人公は少年少女がほとんどである。そうでないと読者側に親近感が湧かないのだ。江戸川乱歩がホームズものに出てくる「ベーカー街イレギュラーズ」を参考に、少年探偵団を明智小五郎の有力な協力者として売り出した理由もこれだろう。
本書に登場する天才高校生のボートルレ君は、最初の少年探偵なのかもしれない。彼は事件の初頭から登場し、ルパンがバラ撒いた欺瞞をはねのけてルパンの目的や正体に迫る。彼は、パリ警察のあまり頭の良くないガニマール警部はもちろん、海を渡ってきたシャーロック・ホームズよりもルパンが恐れる存在になっていく。物語の後半は、ノルマンディ海岸にそびえたつ尖塔状の岩「奇岩城」が舞台となる。中空である岩の中は、カエサルの時代から時の為政者達の隠れ家や資産の倉庫として使われてきたのだ。
ここを見つけたルパンは、さすがにフランス人であるがレストランを内部に作るほど熱心に整備し、アジトにして妻と暮らそうとしている。ボートルレ君が入手した羊皮紙には奇岩城に入る道が暗号で書かれていて、彼は一歩一歩暗号を解きながらルパンを追い詰めていく。