新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第一次世界大戦前の建艦競争

 1900年代はじめ、海の王者は戦艦だった。ただ、それは僕らの世代が子供のころ作っていたプラモデルのような形状はしていない。主砲塔は前後に1基づつ、主砲は4門だけで、舷側に副砲が並ぶというもの。日露戦争のころの主力艦「三笠」がこのタイプである。先進国はどこも各国このような戦艦を一生懸命作っていたが、これらを一夜にして旧式化してしまったのが、英国が1906年に竣工させた新型戦艦「ドレッドノート」。約20,000トンの排水量に、連装砲塔5基を積み蒸気タービンエンジンで21ノット/時の速力を誇った。

 
 同型艦がないことから実験艦としての就役だったと思われるが、片舷に8門の主砲を向けることができるため火力は旧来型の倍、機動力を加味すれば1隻で3~4隻の旧式戦艦に匹敵すると思われた。これを見せられた各国は、ドレッドノート(弩)級の戦艦を設計・起工しようとした。本書はそのころ(1908年)の米国海軍工廠をめぐる諜報・破壊戦を描いたものだ。

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 当時すでに潜在的には世界一の工業力を持っていた米国では、「Great White Fleet」という白塗りの艦隊を誇っていて、これを弩級超弩級戦艦で置き換えようとしていた。そんな中、主砲の設計者が爆死、その他の専門家も次々に奇禍にあって何人も亡くなってしまう。ヴァン・ドーン探偵社の富豪探偵アイザック・ベルは、主砲設計者の娘の依頼で事件に関わることになる。
 
 事件の元凶はかつてニューヨークでならしたギャングだった男、ドイツでスパイとしての訓練を受け米国の弩級戦艦開発を妨害しようとする。これに日本人を含めた各国の怪しい者たちがからみ、例によってベルは何度も命の危険にさらされる。
 
 1905年に戦われた「日本海海戦」の話しも出てきて、米国海軍は日本の力にも警戒感を隠さない。英独両国の建艦競争が続いているが、米国の仮想敵はやはり日本なのだ。ドイツのスパイは海軍工廠の魚雷庫を爆破、爆破の前に英国製の電気魚雷を何本か盗んでいる。これで米軍の戦艦を沈めようというのだ。
 
 クライブ・カッスラーの新しいシリーズの中では、歴史を振り返りながらリアリティのあるアイザック・ベルものが面白い。ところどころに出てくる小物(自動車だったり銃だったり)への愛着も微笑ましく、楽しみながら読むことができる。これで3作読みました。第四作はいつ手に入りますかね。