新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ディープサウスでの心理捜査

 大学生活初期までには、ミステリー1,000冊を読破したと豪語した僕だが、苦手な分野もある。行動派といえば聞こえはいいが、暴力派に近い低俗なハードボイルドは苦手だ。しかしそれよりもっと苦手なものがあって、それがサイコサスペンス。

 
 特に理解できなかったのが異常心理学の分野で、殺人事件の動機を一生懸命考えていると探偵役が「この犯人は異常ですね」といって終わらせてしまったりする。30年ほど前の「ツィンピークス」というTVドラマ、頭がおかしくなりそうで2~3話で見るのをやめた。こういうタイプが苦手なのだ。そんなわけで本書も、ずっと手に取らなかった。裏表紙の解説に「若き刑事の活躍をスピーディに描くサイコサスペンス」とあったから。

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 メキシコ湾を臨むディープサウスであるアラバマ州モビール市が、本書の舞台。主人公の若きカーソン刑事と相棒のノーチラス刑事は黒人(のようだ)。二人は新設された市警本部の心理捜査班に所属している。この街で、男二人が首無し死体になるという事件が起きる。犯人は首を持ち去るだけでなく、死体に文字を入れ墨する異常行為をしている。カーソン達の出番のはずだが、市警本部長の後任人事をめぐる派閥争いの余波でまともに捜査をさせてもらえない。
 
 副本部長の腰巾着の警部、威厳ある女性の検視医長、検視中死体に仕込まれた爆弾で負傷した医師、その後任に選ばれた女性検視官はアル中、多様な人物がからんでくるが多くは警察関係者。捜査が進む中、カーソンは悪夢にうなされ始める。カーソンの兄は殺人事件を起こした精神異常者で、病院に収監されている。ところが異常心理事件ではこの兄が真相を言い当てる。実は、カーソンの刑事としての実績に貢献したのはこの兄なのだ。
 
 400ページ余のうち、300ページまでくらいは「ツィンピークス」のようなわけのわからない状況が続き、文字通り五里霧中。しかし最後の50ページになると裏表紙にあるようにスピーディな、ジェットコースターに乗っているような展開がやってくる。
 
 本書は作者ジャック・カーリイのデビュー作なのだが、かなり完成された作家に見える。意外な結末というミステリーの本道をちゃんと抑えて、人種問題・精神疾患(含むアル中)などの社会問題を巧みに取り入れているのだ。ただ最後の50ページまで読者の忍耐がもたないかもしれませんね。願わくば前半をあと50ページ縮めてくれたなら。