新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

南北日本、分断の危機

 児島襄「日本占領」全3冊を読んだ。太平洋戦争の経緯は中学生のころに図書館で読んで以来、いろいろな本に出会ったし、2・26事件など真珠湾に至るまでの経緯も後に勉強した。しかし8・15以降のことは、ほとんど知らなかった。高校の「日本史」でも、日本の戦後史は簡単に済まされるか、あるいは時間切れで扱われなかったように思う。

 
 全巻を通じての主役と言えるのは、米陸軍第八軍司令官のアイケルバーガー中将。60歳を越え、あしかけ3年の日本勤務で太ってしまったと嘆いたり、妻との再会を切望するプライベートな姿を交えながら、肌の合わない上司マッカーサー元帥との日々が語られる。

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 第一巻は、1945年8月から翌年3月までの記録である。米国を始めとする連合国の占領政策は、天皇制そのものは維持しつつも、
 
 ・軍事力の破壊
 ・国民を代表する政府組織の確立
 ・婦人参政権の確保
 ・政治犯の釈放
 ・農民の解放
 ・戦争犯罪人の処罰
 ・自由な労働運動の保障
 ・自由経済の促進
 ・警察による弾圧の排除
 ・自由かつ責任ある新聞の育成
 ・教育の自由化
 ・政治権力の中央集中の排除
 
 を目指したものであった。簡単に言うと、日本が二度と暴れないようにすることと、米国に似た民主主義国家に生まれ変わらせることである。同時に占領体制は速やかに解消することも、政策の基本方針に盛り込まれていた。
 
 しかし連合国の中に、米国型民主主義とは相容れず「専制国家」と非難された大日本帝国より非民主的な国家ソ連が存在した。ソ連はドイツ同様日本の分割統治を主張、北海道・東北地区を施政下におこうとした。英米には北海道の一部までは譲れるとの意見もあったようだが、いずれ米ソの戦争になるとの予見をした米国軍人は「日本海を米ソ国境(最前線)とする」との意志でソ連の申し入れを突っぱねた。
 
 朝鮮半島の南北首脳会談が世界の注目を集める今、南北日本になっていたらと空恐ろしく思う。北日本はどういう政治体制をしいたのだろうか?共産党支配と天皇制は相容れないはずだが、天皇なしに戦後の混乱期にある日本人の統治は難しいような気もする。宮家から誰かリクルートして「北朝」としたかもしれない。いずれにしてもソ連軍の若い朝鮮系の大尉を持って来て「抗日の英雄金日成」に仕立てるようなことは出来なかったとは思うけれど。