新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サムスンもの大河ドラマ完結

 「ベルリン・ゲーム」「メキシコ・マッチ」に続く、「スパイ小説の詩人」レン・デイトンの三部作の完結編が本書(1985年発表)。主人公バーナード・サムスンは、前作で目標だったKGBのシュティンネス少佐の身柄を確保する。「ゲーム」では一敗地にまみれた彼だが、「マッチ」では取り戻したというところだろうか。

 

 シュティンネスから得た情報で、SISは3人のスパイの摘発に成功する。出だしは好調なのだが、サムスンの上司たちは一抹の不安も抱えていた。寝返ったと見えるシュティンネスだが、これも罠ではないかと。現に彼は決して健康診断を受けさせないし、痛みをこらえているような気配もある。死病に侵されていて、最後の作戦としてSISの懐深く飛び込んだのではないか・・・と。

 

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 SISはMI6の一部局で、「諜報」が専門である。イギリス国内の「防諜」は、MI5が担当だ。本来シュティンネスはMI5に引き渡すべきなのだが、サムスンの上司たちは理屈をつけて彼を確保したままだ。シュティンネス自身が言う。

 

 「KGBはとっくに国内向けと国外向けの機関を一本化した。英国の諜報・防諜組織は非効率だ」と。

 

 これに対してサムスンは、「多少煩わしくて非効率なのが我々は好きなのだ」と切り返すが、昨今の英国議会の混乱を見ていると、あながち冗談ではないかもしれないと思ってしまう。(ちなみにレン・デイトンアメリカ生まれ)

 

 シュティンネスの情報は、SIS内部でも疑惑を広げ始める。サムスンの上司の一人が実はソ連に内通しているのではないか?いや、それは寝返ってなどいないシュティンネスのミスディレクションだ・・・と。物語は、遠くに行ってしまったサムスンの妻、その奔放な妹、サムスンを慕う若い娘、サムスンの幼馴染のユダヤ人とその若すぎる妻など多くの人々の日常生活を絡めながら進んでゆく。

 

 派手な銃撃戦などのアクションはほんの一握りで、大半のページでは心理サスペンス調が表に出てくる。スパイをリアルな市民として、スパイ組織を官僚のそれとして描いた2,000ページである。読み切るには忍耐もいりましたが、勉強にはなりましたよ。