新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

潜っていたスリーパー「蝉」

 2013年発表の本書は、先日「窓際のスパイ」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家シリーズ>第二作。作者は本書で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞している。MI5の落ちこぼれ組織<泥沼の家>では、前作の闘いで2人の欠員ができた。補充されてきたのはやり手だが精神に問題があるとされるカリブ系のマーカスと、上司をぶん殴った通信屋のシャーリー。問題を抱えた諜報員はいくらでもいるということ。

 

 下品な太っちょであるボスのラムについては、前作の活躍で(生き残った)部下からの信頼は高まった。ただ自在に「屁をひる」能力に衰えはなく、決して好かれているわけではない。

 

 うだつが上がらずMI5を引退してポルノショップで働いていたボウが、振り替え輸送中のバスで死んでいた。列車が妨害工作で止められた間の事件だが、警察は心臓麻痺による自然死と片付けた。しかし「スパイは死ぬまでスパイ」として、ラムは単独捜査を開始。ボウが「帽子を置き忘れた男」を尾行中に殺されたことを突き止める。残されていた携帯電話の未送信メールには「蝉」の文字が。

 

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 蝉は英国ではめったに見かけない昆虫、MI5では「長期スリーパー」を示す暗号だ。ラムはボウがかつて関わり合ったロシアの大物スパイ、ポポフの姿を見たのではないかと推測する。ポポフが長年英国に潜らせている組織があると考えたラムは、リヴァーを目当てを付けた地域に派遣する。そこはコッツウォルズの一角、かつて米軍基地があり1990年代に米軍が撤退してからは、英軍の射撃場と新興住宅地になっていた。

 

 ミステリー作家というカヴァーを付けたリックは、進行住宅地アップショットでの滞在を始めるが、ここの住民はほとんどが20年前、同時に引っ越してきた家族。親の世代は皆60歳前後、子供たちも育っているがほとんど地元を離れていない。モルトという人物が「地区のすべてを知っている」便利屋を務めている。

 

 引退スパイの不審死に始まる事件は、ついに「コード・セプテンバー」を発令させる事態になる。シティに航空機が突っ込む可能性があるのだ。<泥沼>メンバー中ミンと愛し合い始めていたルイーザは、ミンも殺されたことで陰謀組織に立ち向かっていく。

 

 おちこぼれ諜報員の第二作、確かに面白かったです。冷戦終了までは、英国にも米軍基地があり跡地問題があることが良く分かりました。