新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

パリのカウボーイ

 昔よく旅行で行ったパリ、中心を流れるセーヌ川沿いには多くの古書店(というか屋台)が出ている。今年

初めに旅行で行ったマドリードでも、、アトーチャ駅のそばに古書屋台が並んでいた。日本ではBook-offに通う僕だが、洋書の目利きなどできるはずもなく、指をくわえて見ているだけだが。

 

 本書はマーク・プライヤーのデビュー作。プライヤーはイギリス生まれで現在はテキサス州で地方検事補を務める法律家。仕事のかたわらに書いた本書は、テキサス出身の在仏大使館保安部長のヒューゴ・マーストンが主人公で、作中にはイギリスから流れてきた古書店主も出てくる。

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 ヒューゴは元FBI、パリ在勤になってもテキサス臭さはぬけずカウボーイブーツの上にスーツを着て伯爵主催のパーティに出かける典型的な「アメリカの田舎者」である。ある日ヒューゴは知り合いの古書店主マックスから、ランボー「地獄の季節」とクリスティ「雲をつかむ死」の初版本を手に入れる。ところがその場からマックスはセーヌ川上のボートに拉致されてしまう。

 

 駆け付けた警察は、しかし捜査に消極的だ。拉致どころか失踪でもなくただ船に乗っただけだと言って、事件性を主張するヒューゴにとりあわない。大使館に休暇を願い出て、ヒューゴは自分で捜査を始める。古書店をめぐるうちに「地獄の季節」の初版本はとても高価なものだとわかる。またマックスがユダヤ系で若い頃はナチ・ハンターだったこと、古書店街を中心に麻薬取引の疑いも出てきた。

 

 稀覯本狙いか、ナチの報復か、麻薬からみか・・・事件の背景が絞れないうちに、マックスの仲間の古書店主も殺される。ヒューゴは知り合った女性ジャーナリストと古い友人のCIAの男の3人で事件を追い、バスク地方にまで出かける。

 

 端々に出てくるパリの情景が懐かしい。焼け落ちてしまったノートルダム大聖堂こそ出てこないが、「レ・ドゥ・マゴ」というカフェや、ポン・ヌフなど知ったところが出てくると場面が目に浮かぶ。そんな洗練された街を、カウボーイブーツで無粋に歩くヒューゴの姿も・・・。

 

 稀覯本が75万ドルもの値で売れたり、付き合い始めた女性ジャーナリスト(当然美女!)が富豪伯爵の娘だったり、40男のヒューゴには事件を追いながら幸運の女神がほほ笑んだようだ。(ほほ笑み過ぎのようにも思う)

 

 過度のアクションもなくリアリティのあるミステリーであるが、どう分類していいか分かりにくい。本格というには謎が浅いし、犯罪小説でもない。まあいろいろな書籍と本を愛する人が出てきてそれがモチーフなった普通小説かもしれません。