新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

諜報・戦場・政治謀略

 戦場では、まれにだがとんでもないことが起きる。例えば本書の表紙のイラストにあるように、同じ塹壕から米軍と独軍の兵士が各々別方向に銃を撃っていたという話も事実である。本書は第二次世界大戦の主に欧州戦線で起きた、諜報・戦場・政治謀略に関する40の小噺を集めたものである。

 

 ドイツの街を空爆しに行って迎撃されたB-17、尾部が破壊され尾部の銃座にいた軍曹は銃座ごと地上に落下した。しかし骨折はあったもののベルギーの田園地帯に落ちた彼は、命を取りとめて10日後に戦友たちに再会する。

 

 あるいは米軍の連絡機(非武装)に乗っていた将校がドイツ空軍の偵察機シュトルヒを見つけ、「見敵必戦」とばかり拳銃でこれを撃った。敵機は急に高度を下げ、墜落した・・・らしい。独軍は操縦系統に銃弾で損害を受けたものの、不時着は別の理由だと抗弁している。

 

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 こんな話も面白いのだが、全体の半分以上は欺瞞行動やスパイ戦である。冒頭の1話「ノルデン照準器」は、開戦時米空軍の最重要機密。アナログコンピュータのようなもので、高空からの爆撃の精度を高める兵器だった。当然ドイツはその情報をつけ狙いついに設計図を手に入れるのだが、製造したコピー機は複雑すぎて使い物にならなかったという。推測するにメカフェチであるドイツ技術陣が、必要以上に凝ったメカ的な改良を加えたのではないか。この照準器のコア技術はエレキだったのに・・・と思う。

 

 開戦劈頭に英国に展開していたドイツのスパイ網は一斉摘発を食らうのだが、それは戦前から英国諜報部がドイツのスパイ学校(!)に留学させていたスパイからの情報によるものだという話には、正直驚いた。現在までその人物の名前や素性、情報をもたらした後どうなったのかはわからない。そのように大胆な作戦を考案・実行できるのは、まさに「大英帝国」ゆえだろう。

 

 暗号戦の話も面白い。単純に暗号機を盗んだり解読を試みるようなことではなく、米軍のブラック暗号がドイツに解読されたことを知った英国が、それを逆手に取ってその暗号に偽情報を乗せて送り、北アフリカ戦線でロンメルを騙したというもの。このようなアクションは、デジタル万能の現在になっても・・・いや、なったからこそより効果的に使えるというものだ。温故知新、いい勉強になりました。