新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Red Sun & Black Cross

 本書は以前「ジョーンズの世界」などを紹介した、SF作家フィリップ・K・ディックのパラレルワールドもの。1963年のヒューゴー賞を受賞していて、作者の最高傑作と位置づける評論家も多い作品だ。昔「Red Sun & Black Cross」というゲームがあり、これを基にした小説(架空戦記)も紹介したことがある。

 

壮大な架空戦記 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 本書はこのゲームと良く似たシチュエーションで「IFの世界」を描いている。第二次世界大戦は、米国が弱腰だったことから枢軸側が優位に戦いを進め、ソ連は崩壊してスラブ民族中央アジアに押し込められてしまった。全欧州はドイツ・イタリアのものになり、フィリピンやオーストラリアは日本が占領した。最終的には米国も分割され、西海岸は日本統治下にある。1947年の終戦から10余年がたち、日本は太平洋全域を治め、ドイツは全アフリカを支配した後、宇宙空間に覇権を展ばしつつある。

 

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 ドイツ支配圏では出版禁止なのだが、カリフォルニアなど日本支配圏で昨今人気なのが「イナゴ身重く横たわる」というSF小説。その中では第二次世界大戦では枢軸側が破れ、ドイツ・日本は廃墟になっている。台頭してきたのがソ連と中国、米国人たちは今とこの世界のどちらがよかったかとこっそり議論を重ねている。コロラド州の「高い城」に籠る作者のアベンゼンは、この小説で何を訴えたかったのか?

 

 日本を凌駕する技術力を持ったドイツは、国内が治まっていない。首相はボルマンだが、ゲッベルスやハイドリッヒらが勢力争いを続け、大量の水爆をもって世界を手に入れようと画策する輩もいる。物語は、ユダヤ民族の苦しみ、黄色いサルに支配された西海岸の白人、日本人好みのイミテーション作りに励む細工師など多くの人の行動を通して、人間の弱さを抉り出していく。全編を通じ作者の東洋趣味があふれていて、特に<易経>が再三出てきて物語の進行に大きな影響を与える。

 

 驚いたのは日本の若いエリート○○夫妻の登場。実はこの苗字、僕の苗字なのだ。ごくマイナーなもので、日本の小説でも見かけたことは1~2度しかない。作者はどうやってこの苗字を調べたのでしょうか?