ウォーレン・アドラーは米軍通信記者として兵役に就いた後、ジャーナリストを経て作家活動に入った。日本であまり知られていない作家だが、映画「ホワイトハウス・ダウン」のような小説かと思って買ってきた。本書の発表は1986年、ソ連の脅威が薄れつつある中で米国の敵として浮上したのがイスラム・テロリストである。
本書はサウジやシリア、イラン、リビアなどから支援されたテロリストが、中東諸国でアメリカ人を次々に拉致するシーンから始まる。エジプト訪問中の国務次官を狙ったテロリストアーマッドは、誘拐に失敗して付近にいたアメリカ婦人と5歳の息子を代わりに連れ去った。そのふたりが、マフィアのドンの娘と孫だったことから事件は複雑になってくる。
激高したドンは、米国政府の「力を尽くしている」と言いながら全く人質が戻らない状況に非常手段に訴えるしかないと思い始める。大統領は「テロリストとは取引しない」とのスタンスで、正直打つ手がないと妻に告げる。このあたり日本の拉致問題と同じで、政府のメディアの前での言葉と本音の違いだろう。むしろ大統領が心配しているのは、核兵器を持つようになるテロリストの進化。これは今の北朝鮮問題、イラン問題につながってくる。
マフィアのドンは腹心の部下とともにホワイトハウスのパーティにウェイターとして潜入、身に着けた液体爆弾でシークレットサービスを制圧し、大統領夫妻をホワイトハウスの一角に幽閉する。無理に奪還しようとくれば、一緒に爆死する覚悟である。ドンの狙いは大統領に対テロリストの積極策をとらせること。少なくとも情報は欲しい。最初は「脅しに屈しない」と言っていた大統領も、妻に危害が及びそうになるとCIA長官を呼び、3人での奇妙な人質奪還計画の相談が始まる。
結局彼らが選んだのが、テロリストの支援者である各国の皇太子や王女、またテロリストの子供を誘拐すること。テロにはテロをということで、中東各国に散っているCIAのエージェントが動き始める。CIAが動けない米国国内に留学等している目標は、マフィアが誘拐する。
単なるアクション小説として読み始め、前半は期待通りのやや冗長なのだが、最後の100ページのめまぐるしい展開は息をつかせない。何より普通はできないテロリストの子供を誘拐して人質交換という対テロ手法も、大統領が人質になっているという特殊事情で「ありうるかも」と思わせる。なかなか達者なストーリーテリングでした。他の作品も読んでみたくなったのですが、見つけられますかね。