新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

五大湖の海運事業

 シカゴの女探偵ヴィクことV・I・ウォーショースキーが登場する第二作が本書。前作で巧妙な保険金詐欺を暴いた彼女は、五大湖の巨大な海運事業にかかわる事件に挑む。ヴィクのたった一人の親近者であるブーム・ブーム青年が死んだ。彼はヴィクの従兄弟にあたり、幼いころから一緒に育った仲。アイスホッケーのスター選手だったが事故で足を痛めて引退、今は穀物会社(日本でいえば商社)に勤めていた。

 

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 埠頭から誤って海に落ち船のスクリューに巻き込まれた事故というのが警察の見解だが、遺品を整理していたヴィクは彼の死の背景に何か大きなものが潜んでいると感じる。穀物会社から聞き込みを始めた彼女は、汽船会社や保険会社をめぐり、ブーム・ブームが何かの疑惑を追っていたことを突き止める。

 

 しかし埠頭からの帰路、彼女の車のハンドルとブレーキには細工がされていて、彼女は大事故に巻き込まれるが、肩の脱臼だけで助かる。彼女は病院から出るや、大型汽船を追ってカナダへ飛び汽船に乗り込んで調査を始める。しかし汽船には爆雷が仕掛けられていて、大型の閘門を通りかかったときに閘門を吹き飛ばして爆沈してしまう。

 

 作者のサラ・パレツキーは女性の身で、荒くれ男たちだけの密閉空間である貨物船に1週間乗り込み、本書の細部に書き込むことを調査したらしい。したがって、汽船の乗組員の行動や船の設備などリアリティの高い作品に仕上がっている。また汽船会社の社長が語る「五大湖の輸送量は、スエズパナマ両運河を足したより大きい」のが本当だとすれば、北米経済の相当部分をこの湖群は担っていることになる。

 

 大海に匹敵する五大湖の海運だが、そこは湖だけにおのおのの水位が異なり各所に閘門を設置する必要がある。大型船を通せる唯一の閘門が爆発で閉鎖されたため、海運会社が明暗を分けた。コスパの悪い小型船を抱えて難渋していた汽船会社に、いい仕事が廻ってくるようになったのだ。ヴィクは保険会社の重役ロジャーの助けを借りて事件の犯人を特定するのだが、証拠が見つからない・・・。

 

 このシリーズまだ2作読んだだけだが、なかなかうまいストーリー展開を見せる作者である。一作ごとに業界を変え、その業界に特有の犯罪を扱っている。もっと本屋さんで探してみましょう。