新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

キングスフォード署の首席警部

 「ロウフィールド館の惨劇」を代表に、サイコ・サスペンスの名手である女流作家ルース・レンデル。平凡な日常に隠された怨念のようなものが、些細なきっかけで噴き出す恐ろしさは類を見ない。日本に紹介されている作品の大半がそうなので、僕はサスペンスものの作家とばかり思っていた。

 

 先日紹介した「死が二人を分かつまで」は少し本格ミステリーに寄った作品だったので、同じ探偵役が出てくるものを探してみた。本書は「死が二人を・・・」の後同じウェクスフォード首席警部が主人公のミステリー。ウェクスフォードはサセックス州キングスフォード署に勤務している。序章として、名前もわからない男と女がナイフでじゃれ合っているようなシーンがある。第一章が開くと、警察に届けられた手書きの手紙が登場、「アンという女が殺された、犯人はジェフ・スミス」と書いてある。

 

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 死体も何もないのだが、天才肌の若い画家ルーの美しい妹アンが行方不明になっていることがわかる。ウェクスフォードの部下たちはアンの行方を追うとともに、アンの別れた夫の名前がジェフ・スミスと知って色めき立つ。しかし同姓同名の何人かの中で目指すジェフを見つけてみると、1年前に死んでいたことがわかる。

 

 解説はレンデルをミステリーの女王クリスティと作風を比較している。何冊かあるウェクスフォードものは本格ミステリーなのだが、クリスティほどの「あっと驚く」解決が用意されているわけではない。しかし登場人物の性格描写や田舎町の風景などは、パズラーに傾くクリスティより数段上だとある。例えば天才肌のルーは半分異常性格者で、本人の言動だけではなく町の住民がどう接するかというシーンは実によく書き込まれている。風景もしかりで、これらの部分を冗長ととるか感じることができるかは読者によって違いがあるだろう。

 

 レンデルのウェクスフォード首席警部登場作品は、この2作のほかはあまり邦訳がないようだ。もう1~2冊読めれば、彼女の本格ミステリー作家としての力量も判断できるのでしょうが・・・。