新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

8月のマンハッタン

 ニューヨークという街も、意外と自然環境が厳しいようだ。蒸し暑く、少し歩いただけで汗がしたたり落ちると本書にある。暑さがピークの8月、大富豪はみなヨーロッパに行ってしまう。裕福な人たちは、国内だが夏の別荘に出掛けて留守。一般の労働者も、かなりの人たちが対岸のニュージャージーで休暇を過ごす。

 

 では誰が残っているかというと、1/10はホームレス。それも暑さが増してくると比率が上がり、1/3ほどになったように感じる。では残りの2/3は誰かと言うと、本書の主人公ウェルズ記者は、新聞記者が相当数いると自嘲する。人気のあるスポーツもなく、ニュース日照りの時期だが、新聞は毎日発行しなくてはならないからだ。これが、オリンピックを8月にする理由だということが良くわかる。

 

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 本書は、ニューヨーク・スター紙の事件記者ジョン・ウェルズものの第三作。3箱/日もタバコを吸う、バツイチの46歳。自殺した娘という十字架を背負いながら、事件記者の矜持だけは失うまいと奮闘している。ウェルズのところに、情報屋がSM写真を持ち込んできた。縛った裸体の美女を叩いているのは上院議員に立候補している政治家。

 

 「スター紙」にはふさわしくないネタだと、ウェルズは情報屋を追い返したのだが、情報屋が殺されて写真は失われてしまう。写真こそ手に入らなかったものの、他紙が政治家のスキャンダルを一面で抜いた。ウェルズの「スター紙」での立場は、崖っぷちまで追い込まれてしまう。

 

 雷鳴が鳴り激しい雨が降る中写真の女を探すウェルズだが、その過程でニューヨークの影の部分が生々しく描かれている。女優を夢見て田舎から出てきた美しい娘たち、しかし簡単にはオーディションは受からない。ポン引きやヤクザに関わるようになり、売春もどきの道に堕ちてゆく。

 

 前作「幻の終わり」に続いて、本書でもウェルズは得意でないアクションを繰り返す羽目になる。息を切らせるのだが、それでもタバコは止められない。「スター紙」の中でたった一人タイプライターを使って記事を書く、自称おいぼれ記者ウェルズの意地と矜持に引っ張られて350ページを読んでしまった。

 

 前作の方が少し面白かったとは思うのだが、大都会の闇に立ち向かうアナログ事件記者は格好いいですね。