新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

悪女の皮肉な戦い

 パトリシア・マガーは本格手法での変格ミステリーを得意とした作家だと、以前紹介した。彼女は大学でジャーナリズムを専攻、道路建設協会の広告部勤務を経て「建設技術」という雑誌の編集を担当、戦後間もない1946年に「被害者を探せ」でデビューしている。本書はその第三作、犯人の側が探偵を探すというあべこべストーリーである。


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 美貌の若妻マーゴットは、女優のタマゴから富豪の妻の座を射止めた果報者。しかし結婚早々に夫が体を壊し、コロラドの田舎で療養生活に付き合わされることになってしまう。彼女は以前から親しく、結婚してからも女中として仕えてくれているトムリンソンおばさんと共謀して夫のフィリップを病死に見せかけて殺そうとする。これを察知したフィリップは、親交のあった探偵ロッキー・ロードスを呼び寄せたことを妻に告げて、黙って出ていくよううながす。
 
 しかし大人しく出ていくようなマーゴットではなく、睡眠薬を盛った上で夫を窒息死させてしまう。おそらく「心臓発作」と判定されるだろう。その夜、マーゴットたちの住む「漁網荘」には3人の男と1人の娘がやってくる。やがて「漁網荘」周辺は豪雪に見舞われ、外界との接触をたたれてしまう。これも「雪の密室」である。
 
 この4人のうちの誰かが探偵だと考えたマーゴットは、罪に怯えるトムリンソンおばさんを叱咤しながら探偵捜しを始める。次々と人を殺してゆくマーゴットの所業はすさまじいが、彼女の心理が細かく書き込まれていてさすがは女流作家だと思う。悪女ものではあるのだが、カトリーヌ・アルレーのような心底恐ろしい悪女ではない。ちょっと欲が深く自尊心が強い女がどんどん深みにはまってゆくプロセスは、極めて皮肉な結末も含めて哀れを誘う。
 
 これも、謎解きそのものは極めてシンプルなものでした。前に紹介した「目撃者を探せ」に比べると、サスペンスの色が濃くなっています。