新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒッピーたちのその後

 ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズも本書(2003年発表)で30作となった。スペンサーは朝鮮戦争従軍経験もあるということだったから、普通ならこの時点で70歳を越えているはずだが、私生活含めて若々しい。ただスーザンと飼っていた愛犬パールは前作で天寿を迎え、本書ではパール二世が登場している。(こちらも女の子)

 

 「初秋」でスペンサーに鍛えられたひ弱な男の子ポールは、舞台演出家として活躍しており、シリーズの長さを感じさせる。今回の事件は、ポールが知り合いの女優ダリルの母親が殺された28年前の再捜査を求めてきたことに始まる。

 

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 ダリルの母親エミリイは、銀行強盗に巻き込まれて射殺されていたのだが、犯人はいまだに捕まっていない。ダリルに犯人を見つけてくれと頼まれたスペンサーが捜査を開始すると、いろいろな障壁が立ちふさがる。昔の事件ゆえ、関係者を探すことも難しいのだが、警察の捜査記録さえ見ることができない。どうもFBIが「協力者」を守るために資料を非公開にしているようだ。事件は単なる銀行強盗ではなく、犯罪組織によるものでその中にいた「協力者」の名前を明かさないよう、事件そのものを封印しているのだ。

 

 事件当時はドラッグや酒におぼれたヒッピーたちが反戦歌を歌っていた時代。エミリイもヒッピーの一員だったらしい。ダリルの父親もヒッピーの一員だが、口を開かない。苦労して真相に近づくスペンサーに、これもヒッピー上がりのギャングのボスとその用心棒が警告してくる。スペンサーと相棒のホークが動くと相手がじれてきて顔を出すのは、このシリーズの定番でもある。

 

 題名の「真相」は、28年前の事件だけではなくヒッピーたちの生態とダリルの出生の秘密まで探り当ててしまったことに由来するのだろう。ダリルは「そんなことまで知りたくなかった」と叫ぶが、スペンサーはもう後戻りできないところまで来ていた。このところアクションが減っていたスペンサーだが、本書では3度の銃撃戦で何人ものギャングの手下を殺す。用心棒のハーヴェイとの決闘シーンは迫力がある。

 

 あいかわらずとぼけたセリフを吐きながら、荒っぽく事件を解決するスペンサー。もう御年なのですからご自愛くださいね。