新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

人道主義者との闘い

 本書はトム・クランシーとスティーヴ・ピチェニックの共著による、米国の危機管理組織「オプ・センター」ものの第6作。舞台はニューヨークなのだが、アメリカであってアメリカでないところ「国連」である。

 

 今回の悪役は、5人のテロリスト。ブルガリア人傭兵のゲオルギーエフをリーダーに、ウルグアイ・オーストラリア・フランス・日本から集まってきた男たちだ。ただ主義主張があるわけではなく、目的は「カネ」。冒頭、パリで現金輸送車を襲うシーンは迫力満点だが、それでもまだ「予告編」。彼らは次の目標を、国連ビルでの人質・身代金強奪に選んでいた。

 

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 一方オプ・センター長官のポール・フッドは、職を辞すことにしていた。仕事柄「荒事」が多く妻のシャロンはそれを嫌っていて、10歳代前半の息子と娘のためにも辞めてくれというからだ。「辞表」を出したフッドは、家族とともにニューヨークを訪れる。娘のハーレーが子供オーケストラに参加し、国連ビルでの演奏会に出演するからだ。

 

 安全保障理事会の会場で子供たちのコンサートが行われているさなか、ゲオルギーエフらが突入してきた。襲われたことなどない国連の警備陣は一蹴され、5人のテロリストは各国大使や子供たちを人質に立てこもり巨額の身代金を要求してきた。

 

 本書の表紙にも描かれている国連安保理の馬蹄形の机がある議場、これを占拠したテロリストと国連の警備隊、ニューヨーク市警などの対峙が始まるのだが、双方が予期しないファクターが絡んでいた。

 

 ・CIAに潜む、ゲオルギーエフの手先

 ・ゲオルギーエフを仇と狙う、クメール・ルージュの暗殺者たち

 ・(まだ)フッドの指揮下にある、オプ・センターの特殊部隊の迅速な展開

 

 表面上は、テロリストと官憲(+父親としてのフッド)の対決なのだが、作者が描きたかったのは人道主義者とテロに屈しない人たちの対決だ。前者の代表たる女性の国連事務総長の対応に、フッドたちは怒りを禁じえない。オプ・センターの特殊部隊も、「国連の治外法権」に阻まれて主力を投入できない。犠牲を払いながらも人質の大半を救出した後の、事務総長と米国大統領の1対1の対決が本当のクライマックスだった。

 

 ピチェニックとの共著の評価は僕としては高くなかったのですが、本書は面白かったです。あと2冊買ってありますが、もう少し探してみることにします。