2009年発表の本書は、真保裕一の日本人作家には珍しい軍事スリラー。作者はアニメータ出身の作家・脚本家で、ドラえもん映画の脚本も手掛ける。1991年「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞するなど、多彩な作品で吉川英治・山本周五郎・新田次郎賞も獲得している。本書は映画「アマルフィ女神の報酬」の脚本に携わった後、本当に書きたかったことを小説の形で発表したもの。それゆえ、映画とは結末が異なる。
黒田康作は39歳、キャリアの外交官だろうが、ただの官僚ではない。外務省入省以来、組織の暗黙のルールは無視し自分の中で描く「外交」を実践している。本書の冒頭には、外務省の闇の部分(私腹を肥やす手口や予算獲得の裏技)を告発する例が豊富だ。黒田はそれゆえ上司からは疎まれるのだが、事務次官からは可愛がられ特命的なミッションに就く。
今回は外務大臣がイタリアを訪問、ロシアの外相などと会談するにあたり、邦人保護担当特別領事として在ローマ大使館に赴任せよというもの。着任早々、大使館に火炎瓶が投げ込まれる事件が起きる。さらに巨大銀行の行員である矢上紗栄子と9歳の娘が、ローマ市内のホテルで誘拐された。身代金要求は10万ユーロ。
外交官に捜査権はないけれど、黒田は邦人少女の保護と母親との通訳として事件に首を突っ込む。クリスマスを前に、矢上母子はアマルフィ海岸を見ようと、イタリアにやってきたという。しかし事件は単なる身代金誘拐ではなく、大きな陰謀が隠されていたことを、黒田たちは徐々に知ることになる。
2度ほど滞在したローマの街、まだ見ぬアマルフィなどイタリアの名所を巡りながら、日伊協力の少女救出作戦が展開する。黒田康作が主人公の作品は、本書を含めて3冊あるそうです。はぐれ外交官が世界を舞台に活躍する、興味深い作品群と思われます。あと2冊も探してみましょう。