キース・ピータースンの、事件記者ジョン・ウェルズものの4作目で最後の作品が本書。なんどもウェルズの前に現れていた悪徳警官、トム・ワッツとの決着をつけることになった。ワッツは以前警部だったが、ウェルズに不正を摘発され警部補に格下げになった。当然ウェルズへの復讐の機会をうかがっている。
ウェルズの方にも、環境の変化があった。肌の合わないエンタメ好きの編集長が去り、広告業界出身の女性編集長がやってきたのだ。彼女はウェルズの不正に挑戦する姿勢を評価し、社内外からのウェルズへの圧力を防いでくれている。
ワッツとの対決のきっかけになったのは、末期がんで入院している元警官からの連絡。15年前に、ワッツと2人で犯罪組織が犯した生き埋め殺人を見逃したというのだ。ところがウェルズは自宅で襲い掛かってきた若い男と格闘になり、相手を殺してしまう。当然正当防衛を主張するのだが、死んだ男が名門大学卒で慈善団体の副理事だというので、風向きが悪くなる。
人を殺してしまったという呵責に見舞われるうえに、事件の担当を買って出たワッツにはいびり抜かれる。ウェルズは死んだ男の勤め先の慈善団体や、男の親に会いに行き白眼視される。しかし、男が麻薬をやっていたという事実はつかむ。
離婚もしたし一人娘を自殺で失った過去を持つウェルズの、自責の想いが延々と綴られる。年齢が半分ほどの女性記者ランシングの愛情も、ウェルズは素直に受け入れることができない。タバコと酒(スコッチ)におぼれていくだけだ。
15年前の事件を嗅ぎつけられたと知っているワッツは、ついにウェルズの殺人容疑での逮捕状を取った。当然通常逮捕ではなく、逮捕時抵抗したことにして射殺するつもりだ。ウェルズは、雨のニューヨークの裏町をドブネズミのように逃げ回ることになる。
敏腕記者だが不器用で人間としての弱みをいっぱい持った男ウェルズの内面を前面に押し出す一方、ちゃんとした謎解きミステリーにもなっているのがこのシリーズだった。軽い筆致で重いテーマを描くのがピータースンの特徴。うーん、もっとたくさん書いてほしかったですね。