新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

壮大な架空戦記

 佐藤大輔という人はもともとゲームデザイナーだった。日本の短いシミュレーション・ウォーゲーム全盛期に、やりたい放題といえるくらい派手な作品を発表した「アドテクノス」の一員である。代表作は「Red Sun & Black Cross」のシリーズで、僕も続編である「Return to Europa」も「Escort Fleet」まで全部買ってプレイした。コマを切るだけでも大騒ぎだったし、並べるのも一苦労、サイコロ振る前に疲れ切ってしまったのだけれども。

        f:id:nicky-akira:20190414201519p:plain

 
 「Red Sun & Black Cross」は、第二次世界大戦で日米の参戦がなく、ソ連と英国本国がナチスドイツに降服してしまった架空世界を描いている。史実でもそうだったように、支配者がいなくなったエリアに「五族協和」を唱えた日本軍が進駐、史実よりずっと広い領域を確保する。
 
 皇国の版図はビルマ、インドを越えアフガニスタンにまで及んだ。そこで中東を制したドイツ軍と対峙することになる。今も微かに覚えているが、アフガニスタンの日本軍守備隊を蹴散らしたドイツの2個軍団がニューデリーから、ひとつはカラチを目指しひとつはボンベイから南下する。これを阻止するため日本軍の海空の戦力が出撃するが、ドイツの通商破壊戦(Uボートや独行戦艦)が展開されるというものだった。
 
 プレイアブルでなかった大型シミュレーションゲームという恐竜が衰退してゆくと、佐藤大輔は作家に転じた。最初は(失礼ながら)読むに堪えない文章だったが、「Red Sun & Black Cross」ものの10作目を越えた本書のあたりから、普通の作家になったと思う。本書は短編集で、表題となっている小篇は通商破壊戦艦「フリードリヒ大王」の主砲弾を浴びた戦艦「尾張」の修理に関するエピソードが紹介されている。
 
 「フリードリヒ」級は「ビスマルク」を上回る42センチ砲戦艦、「紀伊」級の「尾張」は51センチ砲6門の戦艦という設定になっている。海戦の経緯は不明だが、横山信義の説のように、速射可能な小口径砲(42センチ×8)は、大口径砲(51センチ×6)に勝ったということだろう。「Red Sun & Black Cross」の発売は1985年、ゲームは若く、僕もまた若かったころを思い出しました。