新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ウィリス刑事自身の事件

 エド・マクベインの「87分署シリーズ」は刑事群像を描いていて、のちに多くの日本の刑事ドラマが作られたが、そのモデルになったものである。ニューヨークがモデルと言われる架空の街アイソラで、所轄の刑事部屋が主な舞台だ。中心的なのはキャレラ刑事だが、マイヤー刑事・クリング刑事・ホース刑事らがその周りを固める。ほかにも何人かレギュラー刑事がいて、新しい作品には日系のフジワラ刑事というのも出てくる。

 

 初期のころからのレギュラーでありながら、割合影が薄かったのが今回主人公を務めるハロルド・ウィルス刑事。警官の採用試験ギリギリの身長5フィート8インチと小柄で、新米警官時代に12歳の子供を射殺したトラウマから拳銃を使うことはほぼしない。代わりにジュードーとカラテの修練を積んでいて、2メートル級の大男でも簡単に捕まえてしまう特技を持っている。

 

 事件は警備会社の役員の男が、ニコチンで毒殺死体となって発見されることから始まる。それが87分署管内だったので、担当したのがキャレラとウィリス。彼らは被害者の周辺を聞きこむうち、被害者が深く付き合っていたマリリンという金髪美女に出会う。マリリンは仕事もはっきりしないのに豪邸で暮らす女、被害者のほかにも深い付き合いの男が複数(画家・会計士・弁護士)いるという。

 

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 事件解決の糸口が見えないうちに、ウィルス刑事はマリリンに魅かれて同棲を始めてしまう。一方マリリンと付き合いのある会計士が刺殺され、さらには画家も毒殺されることに・・・。事件担当でありながら、関係者と深い仲になってしまった同僚をキャレラと上司のバーンズ警部はなんとか救おうとする。

 

 アイソラにはいくつの分署があるかは示されていないが、本書には珍しくほかに12分署と6分署の警官たちも登場する。これはマリリンや他の関係者が住んでいる場所、死んでしまう場所が87分署管内に限られないためだ。そのため分署間の「タテワリ障壁」も垣間見ることができる。

 

 本筋とは関係ないのだが、マリリンの壮絶な過去のうちメキシコで大麻所持で刑務所入りした時の経験がリアルだ。ほぼ40ページ(全体の1割)にわたり刑務所内での暴行や闇取引の実態が、マリリンのウィルス刑事への告白と言う形で綴られている。

 

 割合格好のいい「87分署シリーズ」以外にも、作者には(別名義で)「暴力教室」という作品があり、荒れるハイスクールの実態をリアルに描いている。これは、高校の時に読んで衝撃を受けたもの。それを少し思い出させてくれた、シリーズ中の異色作でした。