「COVID-19」感染拡大の中、「前例のない措置」がいろいろ取られるようになってきた。そのこと自身は当然と言えるのだが、「この機に憲法改正をして緊急事態条項を盛り込もう」という意見もあるやに聞く。確かにメディアは「ウィルスとの戦争」と叫んでいるし、フランスのマクロン大統領は強大な権限で外出禁止などを施行している。日本では「移動制限もあくまでお願い」だから、効果が薄いという専門家も少なくない。
かつて「有事法制」というのを議論したことがあったな、と思い出して本棚を探すと本書が出てきた。2002年出版で主なテーマは「武力攻撃事態対処法案」である。著者の一人森本敏先生は、後に防衛大臣も務めた。主としてミサイル攻撃や敵国の国土への着上陸に対し、自衛隊はどう動くか国民はどうすべきかを説いたものだ。
憲法9条で「戦力はこれを保持しない」とされながらも、世界有数の予算規模を持つ日本の「Self Defence Force」。僕の知り合いの米国人たちは、いつも「Japanese Navy / Army / Air Force」と言う。国際的には、すでに認知された「軍隊」なのだ。
憲法9条改正まではまだ長い道のりがあるとしても、上記法案は2003年に成立し「武力事態対処法」となっている。
https://www.cas.go.jp/jp/hourei/houritu/jitai_h.html
今回のような「パンデミック事態」に対処するのに、この法律が参考にならないか本書のガイドによって少し考えてみた。
まず「有事法制の目的は人権保障である」と最初に書いてある。個人の主権を制限することもあるが、それは一時的なもので事態収束を早め速やかに人権を回復するのが目的だということ。これはそのまま「COVID-19」の諸般の「自粛要請」につながるだろう。著者は憲法11条に基本的人権の賦与があるが、同じく13条に「公共の福祉に反しない限り」と制約があることを挙げて、「有事法制での私権の制限」の根拠としている。
「武力事態対処法」など成立したことも知らなかったのだが、読み返してみると参考になることは多い。例えば第16条には地方自治体に対する「損失補填」の規定もあるからこの法律をパンデミックにも適用できるよう改定していれば、「COVID-19」でここまで混乱しなかったのではと思いました。