新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「百合子劇場」のルーツ

 連日「COVID-19」新規感染者の人数が都道府県別に報道されているが、北海道の記事を見ると、「北海道庁xx人、札幌市xx人」と個別に発表されていることが分かる。理由は感染者が札幌市に多いということではなく、札幌市が政令指定都市だからだと思う。15年近く前のことだが、神奈川県知事さんとパネルディスカッションをご一緒させてもらったことがある。

 

 楽屋で話を聞いていて、「県知事の権限は政令指定都市には及ばないのです」と言われた。最大の人口を持つ横浜市、それに次ぐ川崎市には彼の監督権限がないらしい。当時の横浜市長は、知事と同じ政治教育機関の卒業生だったから良好な関係と言うことだが、これが対立する政治スタンスだと困ったことが起きかねない。

 

 そういえば先ごろ問題となった「トリエンナーレ展示」、これも愛知県知事と名古屋市長の対立によってこじれている印象がある。さらに10年ほど前には「大阪都構想」というのがあって、「大阪維新の会」が旋風を巻き起こし知事・市長両ポストを手にいれながら府民の投票で都にはできなかったことも思い出される。

 

        f:id:nicky-akira:20200424200715j:plain

 

 本書は2012年に出版された、地方自治の問題点を指摘したもの。主な主張点は、

 

地方自治が国政と遊離して暴走している。

大阪都中京都、新潟州などの構想が乱れ飛んでいる。

・政府や公務員を悪者にして「劇場化」する手法で市民の支持を得ている。

 

 というもの。古くは石原都政、横山(ノック)府政など、市民の熱狂に支えられた地方自治を例に引き、中央官僚の堕落による「地方と中央は同格」という誤った認識がはびこったことを嘆いている。

 

 確かに今般の「COVID-19」感染騒ぎでは、小池都知事の積極姿勢に引きずられるように安倍政権が徐々に強制力を伴う感染予防策に移行していった感じがする。当初「東京ロックダウンという知事の発言は実現不能」と言っていた中央政府も、現在は事実上の「全土ロックダウン」に近い「要請」をしている。

 

 この政策の是非はともかく、本書に言うように「地方自治が暴走」して、ついには中央政府まで引きずり回すようになったのかと思うと、本書の指摘は感慨深い。各県知事は東京都に倣うように事業の自粛を「要請」しながら中央政府に「もっと支援を」という。

 

 国難だからというのは分かるのですが、「百合子劇場」のルーツを本書に見てちょっと複雑な気分になりました。