新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

翻訳者の想いと力

 以前「特攻艇基地を破壊せよ」や「アドリア海襲撃指令」を紹介したダグラス・リーマンの、やはり第二次世界大戦ものが本書(1985年発表)。この2冊が「海の男の闘い」を前面に押し出したもので、そこそこ気に入ったので「三匹目のどじょう・・・」と思って読みはじめた。

 

 大型艦ではなく砲艦や哨戒艇、特殊部隊の活躍を描くのがリーマン流、本書の主役も英国海軍特殊作戦部隊である。船団護衛をしていた駆逐艦の副航海長フレーザー大尉(後に少佐)と部下を失くして心に傷を負った爆発物処理班のアランビー大尉は、同時期にこの部隊に赴任してくる。

 

 最初の2人の任務は、シチリア島侵攻前にドイツ軍の電力設備を破壊すること。肌の合わない指揮官(中佐)や非情極まりないSASの少佐とコンフリクトしながらも、ミッションは成功する。表紙の絵はこの時、ドイツのEボート(全金属製)の追撃を振り切ろうとする2人の砲艦(木製)のシーンである。エリコン20mm砲と、少ない爆雷だけが頼りだった。ただナチスは破壊工作に関与したとしてシチリア島民を虐殺、無事に帰った2人も任務の過酷さを思い知る。

 

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 その後、ノルマンディーのレーダー基地爆破を経て、オランダ沖での諜報員のピックアップ作戦がハイライト。ドイツ製の捕獲潜水艇や旧式艦を使っての強大な敵に立ち向かう、これも「海の男の闘い」だった。ただ、上記の2作とは微妙に感触が違う。戦争の場面と部隊での休息(含む恋愛)の場面が交互に出てくるのは同じだが、やけに恋愛シーンがヴィヴィッドなのだ。

 

 途中まで読んで気付いたのは、訳者が上記2作とは違ったこと。あとがきも訳者が書いていて「繰り返し読みながら、何度涙したか」とある。また、「戦争の描き方が非情に、冷徹に、甘さがない」とも言っている。訳者は本書を「戦時ゆえの悲恋の物語」と思っていたのだろう。後半に、軍事常識に矛盾する明らかな誤訳と思われるところもあって、戦闘シーンの迫力はいまいちだった。

 

 いままで意識することのなかった翻訳というプロセス、何冊か読んでみることでやはり重要であることに気づきました。