新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カリフォルニア州の変な判例

 高校生だった一時期、アール・スタンレー・ガードナーの「ペリー・メイスンもの」は何冊か読んだ。「どもりの主教」と「義眼殺人事件」が傑作と言われていたが、そのほかの作品もいつも楽しめたものだ。後半の100ページほどは、おきまりの法廷シーン。予審の場合は裁判官だけだが、本審となると当時の日本には無かった陪審員が出てきて、メイスンの法廷戦術に乗せられたり鮮やかな解決に酔ったりする。

 

 もちろん相手役の検察官はいい「面の皮」で、最後に打ちのめされて「し、しかるべく・・・」などと敗北宣言をすることになる。のちに日本でも多くの法廷ドラマがTVで放映されるようになるが、45年ほど前の一時期(無謀にも)法学部を目指した僕にとっては、米国の法廷ものは「教科書」だった。

 

 ずっとこのシリーズにはご無沙汰だったのだが、昨年末に平塚のBook-offで見つけ、5~6冊まとめ買いをした。しばらく「積ン読」だったのだが長い「Stay Home Week」に読み始めた。最初の一冊が本書「歌うスカート」である。

 

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 ロサンジェルス郊外のカジノの街で働く美脚の女エレン、彼女はカジノのボスにイカサマ賭博(ポーカーだった)の片棒を担ぐのを断ったために罠にはめられる。困った彼女が頼ったのが、メイスン事務所だった。メイスンはボスが買収している街の警察署長や弁護士相手に法律論の立ち回りをして、彼女を救う。しかしイカサマ賭博の被害にあったエリス夫妻の事件に巻き込まれ、エレンはミセズ・エリス殺害の容疑を掛けられてしまう。

 

 メイソンと他の弁護士が議論したカリフォルニア州のちょっと変わった判例が2つある。

 

(1)共同財産を片方(例:夫)が他方(妻)の同意なくカジノですった場合、他方は返還請求ができる。

(2)共謀のない2人が相次いである人物を射殺しようとした場合、最初の弾丸が致命傷を与えたなら2人目は命中させても殺人罪にはならない。(死体損壊かそのくらい)

 

 (1)はエリス夫妻にメイスンが出す助け舟なのだが、ミセズ・エリスが心臓付近に2発喰らって殺されて(2)の判例が争われることになる。エレンもミスター・エリスもカジノのボスも、メイスンさえ同型の拳銃を持っていたからだ。

 

 謎はやや難解なのだが、テンポが良くあっという間に読めてしまいました。法廷に響く「異議あり!」の声、懐かしかったですね。