新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

帝国海軍の「歩」

 光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「小艦艇」である。俗に「歩のない将棋は負け将棋」というが、海軍の作戦遂行は戦闘艦だけでは行えない。さまざまな用途をこなす艦艇(必ずしも小さいとは限らない)の支えが必要だ。本書は、そんな目立たない艦艇を網羅したもの。6章構成になっていて、

 

1)敷設艦:機雷や通信ケーブルを敷設する艦

2)砲艦:少ない重砲を積んだ小型艦

3)駆潜艇海防艦:沿岸中心に対潜、警戒にあたる艦

4)掃海艇、魚雷艇哨戒艇:小型の機雷除去や雷撃、警戒にあたる艇(艦より小型)

5)輸送艦:歩兵や戦車、艦艇用燃料、航空ガソリンなどを運ぶ艦

6)雑役船:救難艦、上陸用舟艇、連絡艇など

 

 について、帝国海軍が配備していたフネをコンパクトに紹介している。興味深かったものをいくつか挙げよう。

 

◆特設敷設艦「蛟竜丸」

 金毘羅参りの連絡船だったが、日露戦争で機雷敷設能力を付けて配備された。敷設した機雷が、ロシア極東艦隊の旗艦「ペトロパブロフスク」と名将マカロフ提督を葬り、殊勲艦となった。746トン。

 

◆砲艦「安宅」

 大正年間の砲艦隊旗艦。12センチ砲2門を装備しているが、本来は儀礼用の船。「砲艦外交」というのがそれで、砲と国旗を見せて外国民に威容を示す用途。日華事変のおり揚子江を上海方面にさかのぼり、日章旗を誇示した。725トン。

 

        f:id:nicky-akira:20210907095516j:plain

 

◆第13号駆潜艇

 表紙のイラストが「第13号駆潜艇」、太平洋戦争に投入された駆潜艇約40隻の中期建造艇である。80mm高射砲1門、13mm機銃2門を装備し、36個の爆雷を積んでいた。437トン。

 

給兵艦「樫野」

 特殊も特殊、「大和」型戦艦の46cm砲を運ぶために作られた輸送艦。「大和」は呉で、「武蔵」は長崎、「信濃」を横須賀で建造されたが、主砲は呉でしか作れない。その重量物を呉から運ぶための船だった。1,036トン。

 

給糧艦「早埼」

 食糧輸送用(調理も可)の船。18,000名の兵士が3週間食べられる食糧を搭載できた。船内に牛も飼っていて、ステーキも作れた。15,820トン。

 

工作艦「明石」

 前線で損傷した船を修理する艦、帝国海軍はこの種の船を1隻しか持たなかった。多くの艦艇を蘇らせた殊勲艦だが、最重要目標として付け狙った米国機動艦隊に止めを刺された。9,000トン。

 

 飛車角ばかりに着目した帝国海軍の弱点を、「明石」の運命は示しているようですね。