新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2,000年間「悪魔」を追って

 エドワード・D・ホックは膨大な短編ミステリーを書いた。以前怪盗ニック・ヴェルヴェットのシリーズを紹介しているが、彼は依頼を受ければなんでも盗むのだが「価値のないもの」に限るという変わったビジネススタイルを貫いている。盗むのは例えば、古新聞・使用済みティーバックといったものだ。

 

 またサム・ホーソーン医師も、多くの不可能犯罪を暴いている。ニックが軽いノリの怪盗なら、ホーソーン医師は本格的なミステリーの名探偵という設定だ。ただ僕自身はホーソーン医師ものは(全部読んだのだが)あまり面白く感じなかった。あとレオポルド警部ものもあるのだが、今回手に取ったのはオカルト探偵サイモン・アークが登場する短編集。実はホックのデビュー作の主人公は、この2,000歳とも言われる元コプト教(エジプト独自のキリスト教)の僧侶である。デビュー作「死者の村」(1955年発表)は、隔絶された村の住民73名全員が崖から落ちて死んでしまう事件を描いている。

 

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 新聞記者だった「わたし」はこの事件でサイモンと知り合い、以降本書に収められている10編で約半世紀にわたってサイモンのワトソン役を務める。いずれも30~40ページほどの短編だが、最初に超常現象とおぼしきものがあり「悪魔のしわざ」と言われるとサイモンが現れ、最後は超常現象ではないと証明して真相を示す。

 

 サイモンは自称2,000歳で、生涯をかけて「悪魔」の存在を追いかけているのだが、少なくとも本書の中では本物の悪魔には出会えていない。長身痩躯、顔に細かなしわが無数にある風貌は、「そっちこそ悪魔でしょ」と言われかねないものだ。相棒である「わたし」は最初の事件で知り合った妻シェリーと暮らし着実に年を取っていくのだが、サイモンは50年間で風貌が変わらない。シェリーは、夫が正体不明のサイモンと一緒に事件を追いかけることを良く思っていない。

 

 看板はオカルティズムなのだが、中身は本格的なミステリーである。より有名な(Wikipedeiaではホーソーン医師の記述の方がサイモンのそれより5倍多い)ホーソーン医師物よりずっと面白い。もし第二集があるなら探してみますよ。