新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

五万年前の男

 米国のSF小説ブームの第一波は1950年代、アイザック・アシモフやA・C・クラーク、R・A・ハインラインなどの諸作が評判を呼んだ。しかし、その後米ソ冷戦や核戦争の恐怖もあって、SF小説は下火になった。現実のサイエンスがフィクションに追いつき始めていたのかもしれない。しかし1970年代になって、SF小説の第二次ブームがやってきた。その代表格なのが、1977年発表の本書とその作者ジェィムズ・P・ホーガンである。

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 時代は2029年、月の裏側を探検していた宇宙軍(地球統一政府があるようだ)が、宇宙服に入った男の死体を発見する。見慣れない真紅の宇宙服の中の死体は、どの部門の行方不明者でもなかった。何しろ死亡推定時刻(?)は5万年前だったからだ。
 
 男の装備や付近で見つかった機器は、地球の科学では理解できない技術が使われているところもあったし、ずっとコンパクトにできているものもあった。また使われている文字や単位系、カレンダーなども全く未知のものだった。
 
 原子物理学者ハント博士を筆頭とするチームは、死体や機器の分析や文字の解読に挑んだ。男は生物学的な分析の結果、ホモ・サピエンスそのものであることがわかった。残されたメモのかなりの部分が解読された結果、男は兵士であり2つの勢力が惑星ミネルヴァで戦い月で力尽きたものと考えられた。核兵器がおもちゃに見えるくらいの超兵器が使われた後、ミネルヴァは粉々になってしまった。火星の外側にある小惑星群がその残骸らしい。
 
 一方木星の衛星ガニメデでは、巨大な宇宙船が発見され未知の技術が使われていることもわかった。ブラックホールを人工的に作り出して推進力にすることによって、光速を越える速力を出すので星系間移動も可能らしい。また、こちらはさらに古く、2,500万年ほど前のものと思われた。
 
 読者の前には、月の男は何者?ミネルヴァはどこにあった?なぜ地球人と同じ?ガニメデの宇宙船との関係は?など多くの謎が突きつけられる。ハント博士らは、いろいろな仮説をぶつけ合うのだが・・・。
 
 結果として、「ガニメデの巨人」シリーズ三部作の最初の作品になったのが本書。SFとは言いながら、謎に迫るハント博士らの活躍は名探偵のそれに近い。ミステリー100選に名を連ねていたので買ってきたのだが、期待を裏切らない力作だった。続編も探しますよ。