新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ワシントンDCのマルコ

 ご存じ神聖ローマ帝国第18代大公マルコ・リンゲ殿下だが、170冊あまりのもの登場作品がある。東京創元社が60冊あまりを翻訳したところで日本に紹介されなくなり、扶桑社が新しく翻訳を始めたのが2002年発表の本書。

 

 このシリーズは1965年の「イスタンブール潜水艦消失」から始まるのだが、その時すでにマルコ殿下は青年と言う風情ではない。35~36歳くらいのイメージで作者(1929年生まれ)と同年代と思っていた。本書発表の時点で作者は70歳を越えているから、マルコも・・・と思ったのは間違い。例によって次々に現れる美女に、男らしさを振りまいている。まあこのシリーズの売り物は、国際情勢の深い調査とサディステイック&エロティックなシーンだから仕方ないのだが。

 

 本書のきっかけとなったのは、有名な9・11テロ、これは非常に精緻に計画されたもので、これがイスラム戦闘員だけで練り上げられたとは思えないというのが、作者の発想。もちろんウサマ・ビン・ラディンにはブレインもいただろうが、それは米国の裏事情にまで精通したプロでこの人物が前線指揮をした可能性は否定できない。本書はCIA分析官ジョン・ターナーが貿易センタービルに2機の旅客機が突っ込むのを見届け、ビン・ラディンに成功を知らせる暗号を送るところから始まる。

 

        f:id:nicky-akira:20190717190512j:plain

 

 大統領の側近は事件の3か月後、ターナーの存在に気付くのだが仲の悪いFBIに漏らすことも、CIA内部で調査することもできないジレンマにさらされてマルコを呼び出す。その結果、僕は一度も読んだことのないマルコ殿下がDCを駆け回るシーンが出来上がったわけだ。例えば(DCに隣接した)ヴァージニア州のフォールズ・チャーチはスパイの巣窟だとある。え、そこは僕がよく通る街じゃないか。またユニオン駅からニューヨーク行きのアムトラックに飛び乗るシーンも、やったことはないが感覚はつかめる。

 

 地名を思い出しながら読んでいるうちに、ターナーたちが新しいテロを企画していることが見えてくる。旧知のゴリラ2人を貸してもらったマルコは、命がけで2度目のテロ阻止に向かう・・・。読後感としては、旧シリーズより読みやすくなったような気がする。翻訳者の違いかもしれない。

 

 とはいえ扶桑社の翻訳も3冊を出版して終了している。もうBook-offでも見かけることがなくなり、これが最後の未読作品。作者は2013年に亡くなっています。毎年4冊もの執筆ペース、お疲れさまでした。