新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

江沢民政権のスキャンダル

 これまで何冊も紹介しているジェラール・ド・ヴィリエの「プリンス・マルコもの」。1965年から年間4冊ペースで発表され、2008年まで書き継がれた。総計174作品。日本には1980年までの60作品は、創元社立風書房が翻訳を出していた。その後日本での新作発表が途絶えていたが、2002年の「ビン・ラディンの剣」から合計3作品が翻訳出版された。本書(2001年発表)はその中の1冊。

 

 福建省の貧しい家に生まれたリ・シャーチンは、厦門経済特区でのし上がり、厦門随一の富豪・有名人になった。もちろん表の商売だけではなく、不動産取引から密輸まで非合法なことにも手を染めた。それを支えたのは多くの権力者を抱き込んだ「賄賂・接待」攻勢。国防部長のジ将軍や江沢民の甥も後ろ盾にして、まさにやりたい放題をして巨万の富を築いた。しかし、ジ将軍が更迭され「清廉将軍」が後任に着くと、リ財閥の関係者が一網打尽にされた。政府要人・軍人も含め多くは死刑になってしまった。

 

 リ自身は間一髪香港からバンクーバーに逃れ、中国系マフィアに匿われている。中国政府はリを殺人容疑で指名手配しカナダ政府に引き渡しを求めているが、両国には引き渡し条約関係がなくカナダ政府は静観している。しかし水面下では中国との関係を重視して引き渡しへの動きもあり、米国への出国は阻むつもりだ。

 

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 今回マルコに与えられた任務は、リを米国に連れて帰ること。リは江沢民政権の重要な機密を握っているらしく、CIAは中国台頭を抑えるためにその機密が是非にも欲しい。しかし問題は中国政府が暗殺や誘拐を画策し、カナダ政府がそれを黙認するだけではなく、リ自身が米国へは行かないと言っていること。

 

 マルコやバンクーバーのCIA組織は、リを守りながら同時に彼を誘拐する手段を練ることに。例によって色気横溢の美女が何人も登場、マルコもその餌食(?)になってしまう。それにしても1965年デビューの時に35歳だったとして、いまや70歳過ぎのプリンス。とてもお元気だ。

 

 ちょうど「国退民進」から「国進民退」へと変わる(習政権と同じような)時期、濡れ手で粟と儲けた富豪への民衆の怒りが頂点に達していた時期だった。一度行ったことのあるバンクーバー、いいところなのですが本書にあるように、中国マフィアがそんなに根を張っていたのですね。