新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

バラクラヴァ農業大学の悲劇

 以前紹介した、シャーロット・マクラウドのシャンディ教授ものの第二作が本書。前作「にぎやかな眠り」で同僚のエイムズ教授の奥さんが殺された事件を解決したばかりか、シャンディ教授は50歳代半ばを過ぎて人生の伴侶ヘレンと結ばれる。幸せいっぱいの教授夫妻だが、悩みがないわけではない。

 

 隣家のエイムズ教授宅には、亡くなった奥さんを上回る女丈夫の家政婦が棲み付き、漂白剤を振りまいている。なじみの装蹄師マーサのところでは、縁起が悪いとされるΩ形に蹄鉄が下げられているのを見て、いやな予感に襲われる。予感通り、夫妻は貴金属店での強盗事件に巻き込まれヘレンが一時期人質になってしまったり、友人のストット教授が丹精して育てた妊娠中の雌豚ベリンダが誘拐され、あとにはマーサの死体が残されていた。その事件以降、学長の愛娘がわけも言わず自室で泣き暮らすようになってしまった。

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 時はおりしも、他大学と競う馬の競技会が迫っている。本命とみられているバラクラヴァ農業大学に降りかかる不幸の連続に、学長夫妻はシャンディ教授に事件解決を依頼(・・・というか命令)する。そこで前作同様「いやいや探偵」をはじめる教授だが、捜査のプロセスよりは農業大学の日々の暮らしの方が、本書はよほど面白い。

 

 作物や家畜というごまかしの効かないもの相手にする農学部という特性からか、学生も教官もマジメでまっすぐな人が多い。畜産学部長ストットン教授は品種改良したベリンダを実の娘のように可愛がっていて、誘拐されて気も狂わんばかり。貴金属店強盗の手配がされている中で、ベリンダが遠くまで運ばれるはずはないと学生たちもチームを作って「山狩り」をする。

 

 しかし農業大学の悲劇は終わらず、競技に使う馬車も何者かに壊されてしまう。マーサの甥フランクが先頭に立って競技までに馬車を修理しようとするのだが・・・。最後の50ページでシャンディ教授は警察と組んで鮮やかな解決を見せる。それでも(繰り返しになるが)、マサチューセッツの田舎の農業大学の日々のほうが面白い、変わったミステリーではあります。