新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

未亡人セーラの恋と冒険

 1981年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第三作。11月「納骨堂の奥に」の事件で夫を亡くし、1月「下宿人が死んでいく」で邸宅を改装した下宿屋を始めたセーラ。まだ27歳にもなっていない若い未亡人の肩には、旧家ケリング一族全体への責任がのしかかっていた。それを影日向なく支えてくれているのが、第一作から登場している美術鑑定家のマックス・ビターソーン青年である。

 

 今回の事件は、セーラとマックスがウィルキンズ美術館を訪れている時に起こった。4月の陽光の下で、大家であるセーラと半地下の部屋に下宿しているマックスは、節度を保ったデートをしていた。この美術館は富豪のマダム・ウィルキンズが欧州各地から集めた美術品を大量に展示している、ボストン有数の施設。通称「ウィルキンズ御殿」である。

 

 監視カメラや警報装置に加え、大勢の警備員が雇われて美術品を護っている。警備員の多くは高齢者で、そのひとりブルックスはケリング一族のひとりで、セーラとは遠い縁戚関係にある。ブルックスは若いころから放蕩を続けた自由人、警備員の職についているだけマシとセーラは思っている。

 

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 見学で眠気さえ覚えたセーラだが、老警備員の一人が建物から転落死し、彼が直前に美術品が贋作になっていたと言っていたことから事件となる。さらに強盗未遂事件も重なり、もう一人の警備員も毒殺された。

 

 その日からセーラの下宿のディナーでは、美術品の真贋や殺人事件の手掛かりが話題を独占する。新しく1階の続き部屋を借りたゲイツ夫人、以前からの下宿人たちに加え、ゲストとして画家のドロシー、興行師のニコラス、イコン作者のリディアらもやってきて議論は発散する。

 

 鑑定家のマックスは「御殿」の美術品の相当部分が贋作ではないかと考え、専門家を呼んで確かめようとする。美術館の側でも鑑定士を呼んで、両者の意見は真っ二つに割れる。贋作へのすり替えプロセスに気づいたマックスとブルックスは深夜の張り込みに出かけるが、セーラも付いて行った。

 

 最初からお互い気になっていたマックスとセーラは、夫の死後5ヵ月が経って急接近する。美術館でのパーティにインド人夫妻に変装して潜入するなど、冒険も。下宿人たちのやりとりなど、作者の「シャンディ教授もの」で顕著だったユーモアが、本書では大きくなっていますね。