新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

失明した名探偵

 シャーロック・ホームズも奇矯な性癖の持ち主だったし、そのライバルたちも平々凡々とした人はいないのはある意味当然なのかもしれない。名探偵というのは非凡な人だから名探偵なのであって、凡人型と言われるクロフツフレンチ警部でも、もちろん鋭い推理を見せる。ホームズ以後乱立気味であった名探偵ものを自分でも書こうと思った時、作者は自分のレギュラー探偵を何かしら特徴づけようとするのもまた当然であった。

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 その中でもかなり特殊な部類に入るのが、本書の主人公マックス・カラドス。事故で失明したのだが、並外れた意志の強さで障害を克服、新聞を指でなでて読むことができるほど感覚が鋭くなった。彼にはアメリカ人のいとこから遺贈を受けた資産があり、カメラの目と記憶力を持った執事パーキンソンに助けられて名探偵ぶりを発揮する。古くからの友人で私立探偵のカーライルが、ときどきワトソン役を務める。
 
 鋭敏な聴覚や触覚によって、人の声を聴き分けたり、さわっただけで宝石や古銭の真贋を鑑定できるのが、彼の一つの強み。見えてないので変装などしてもムダというわけ。代表的な短編「ブルックベンド荘の悲劇」を始め何編かは機械・電気的なトリックが中心に据えられていて評価が高い。しかし僕から見るとレベルの差が大きく、拍子抜けする結末やカラドスが事件の解決に寄与しないようなものも混じっている。
 
 印象に残ったのは「ヘドラム高地の秘密」で、まさに第一次世界大戦勃発直後の日、イギリス艦隊の動向を探っているドイツのスパイをカラドスとパーキンソンが追いつめる話だ。この話では、カラドスは「音に向かって撃て」とばかりスパイを射殺する。銃を撃つだけでなく丘を駆け回るシーンもあり、本当に盲人なのかと疑問に思ってしまう。
 
 障害を負った探偵というのは、「鬼警部アイアンサイド」などその後何人も出てきます。ほぼ全身不随のリンカーン・ライムまでいきつくのですが、さすがに盲人探偵というのはマックス・カラドス以外に知りません。正直言って、無理な設定だったのではないでしょうか?