2004年発表の本書は、法人類学者エミリー・クレイグ博士の経験を綴ったノンフィクション。「死体は語る」の上野正彦氏が推薦している書だ。クレイグ博士はもともとは医療イラストレータ、検視解剖の現場で助手的な役割をしているうちに法人類学の道を目指し、中年になって博士号を得て大量殺人や大規模災害などの現場に立つようになる。
本書のハイライトは、9・11テロ。3,000人を上回る犠牲者が出て<グラウンド・ゼロ>からは、
・飛行機で突入した際にクラッシュした死体
・ビルの火災によって焼死した死体
・ビルの倒壊に巻き込まれた死体
などが続々回収されてくる。これを検視するのだが、骨片や肉片となっている遺体も多い。遺体は、コンクリートや鉄骨の破片と混ぜ合わされてしまっているのだ。そんな中、身元確認には、骨や歯、珍しい刺青、指紋、DNAが使えるだけ。
筆者は、以前にもカルト教団ブランチ・デビディアンの集団自殺現場で、数十のバラバラ遺体の山を解析した経験もある。最後に自爆したと考えられていた教祖の遺体を継ぎ合わせて検視した結果、爆発前に何者かに射殺されていたことを突き止めている。
NCISのようなTVドラマでは、死者の何かが手に入るとすぐに行方不明者DBにアクセスして身元が割れるが、実際はそう簡単ではないとある。毎年膨大な行方不明者が出るし、正しい鑑定用データが提供・保存されているわけではない。またNCISではダッキー検視官とアビー分析官でほぼ全ての科学捜査をしてしまうが、実際は数十人のチームでやっている。例えば軟組織のついた骨片なら、軟組織は法病理学者が、骨片は法人類学者が鑑定する。
筆者はかなり細かな骨片でも、触れば人体のどの部分かはわかるという。また骨にも人種の特徴がいくつかあって、
「身長180cmほど、体重90kgほど、30~40歳の白人男性」
などと骨だけでも断定できる。
本来なら胸の悪くなるようなテーマですが、アカデミックな視点が多かったのでパズル教本として読み終えました。自分で検視するのは御免ですがね。