新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

二十余年前の予言

 本書の著者寺島実郎先生には、2005年ごろ初めてお会いしている。当時から押しも押されぬ経済人で、グローバルな視点で大局を読み解く人だった。ある業界団体の政策研究会にデジタル屋として入ったのだが、その会の会長をされていた縁である。本書の発表の1998年の直前まで米国東海岸で執務され、10年ぶりに帰国した日本の置かれた位置を憂えて発表されたのが本書である。

 

 2005年ごろ読んだ本をなぜ今再読したかというと、本書に言うグローバリズムが曲がり角に来たと感じたからである。それは「COVID-19」のせいもあるが、最大要因は米中デカップリングが不可避になったこと。

 

 本書は20世紀の後半にグローバリズムが進展し仮想国家の議論も出るなど、企業が国家を超越した存在になりつつあることを主張していてそれが「国家の論理と企業の論理」というタイトルに現れている。その中で日本は「柔らかな親米入亜の総合戦略」を取るべきで、米中という巨大パワーの間で第三局たる位置を占めるべきとある。

 

 当時まだGDPでは中国は日本に遠く及ばなかったにもかかわらず、筆者は今の事態を予想していたようだ。米ソと米中の違いを筆者は、

 

・米国には親ソという人たちは皆無

・しかし在米華僑を始め、親中という人たちは多く、潜在力は大きい

 

 と説明している。孫文がハワイで学んだことや、日中戦争に米国が義勇飛行隊(Flying Tigers)を送ったりしたことを米中の結びつきの例として挙げている。

 

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 そして、日本の対中外交の4原則を示している。

 

(1)戦後世代としての過去の清算

(2)中国の近代化に協力し国際社会への参画を促す

(3)あらゆる国の核兵器実験を反対とする核政策の明示

(4)台湾問題への不介入

 

 本書が出てから20余年、この4原則はこれまでは日本政府によって守られてきたと思う。(1)については中国は半島の国ほどうるさくないし、米国の核戦力が日本にあるとはいえ(3)も堅持してきた。しかしグローバリズムそのものが揺らぐ事態になっても、(2)真の意味の中国の近代国家化は未達だ。今や最前線は香港ではなく台湾海峡尖閣諸島になりつつある。(4)台湾とは日本も連携を深めざるを得ない。

 

 米中という巨大パワーの間での戦略、今僕たちこそが再考しなくてはならないと思って、本書を読み終えました。