以前映画「コブラ」の原作となったアクション小説「逃げるアヒル」を紹介した、ポーラ・ゴズリングの第二作が本書。決まった主人公やある種のパターンを持たない作家と言われているが、本書は思い切った舞台設定をしたエスピオナージ風のミステリーと言えるだろう。
中東からロンドンに向かう貨客機には、9人の乗客が乗っていた。男やもめの天文学者スキナー教授、英国陸軍の将軍の娘ローラ、土木技師夫妻とその幼い息子、大使館付の軍曹、移送される殺人容疑者と移送を担当する警官、クラブ歌手の女である。
ところが離陸早々、機内に催眠ガスが流され乗客たちは意識を失ってしまう。ガスに加えて催眠剤を注射された9人が目覚めると、そこは極北の1軒屋の中だった。室内に水も食料も燃料などもあるのだが、防寒着などはなく外に出たら30分と生きていられない。9人は事実上の囚人になってしまった。
一方ローラの父エインズリー将軍や英国政府のもとには、9人を誘拐した犯人か脅迫が届く、9人は保護されているが6週間以内に要求が容れられなければ命はないという。要求は金塊、強盗犯の釈放、世界的指揮者のコンサート開催と脈絡がない。加えてNATOで計画しているラップランドでのレーダー基地建設中止がある。
囚人たちは、太陽黒点の専門家で極地での観測経験のあるスキナー教授を中心に脱出計画を練る。まずここがどこか(緯度・経度)を知り、何日かに一度囚人の生存確認写真を撮りに来る誘拐犯の目を盗んで、拉致された場所を政府・官憲に伝える手段を考える。
スキナー教授はローラが毛布などを縫い合わせた手製の防寒着を着て、ありあわせの道具で屋外に出て天測をする。そして犯人が撮る写真の中に、その数値を埋め込むのだ。しかしそんな努力の中で、土木技師の妻が殺されてしまう。殺人犯は残った8人の中にいるのだ。
手の込んだ誘拐劇、犯人の奇妙な要求、9人の乗客間の猜疑心、焦る将軍や官憲、さらに自然の猛威が「囚人」たちに迫る。面白いのは、ヒーローたる教授もヒロインたる娘ローラも決して美男美女ではないこと。等身大の2人が、これらの危機に立ち向かっていく。
「逃げるアヒル」を読んで、女流アクション作家としては中途半端とコメントしたのですが、本書は謎解き・冒険・アクション・ロマンスが適切に混じった秀作です。まだ数冊買ってありますから、読むのを楽しみにしていますよ。