新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

基本的には「逆張り」思想

 もともとは作家崩れのエンジニアなので、一番苦手なものはと聞かれれば「お金」と応えることにしている。それでも人生にある程度は必要なのが「お金」であることは知っていて、苦手ながら勉強はしなくてはと思っている。本書は、世界3大投資家のひとりジム・ロジャーズが2018年末時点でまとめた、日本の投資家向けの指南書である。「COVID-19」以前の、彼の世界観が分かる資料だ。

 

 著者は決して裕福な家に育ったわけではないが、名門イェール大、オックスフォード大で歴史を学びウォール街に加わった。ジョージ・ソロスと立ち上げたファンドは10年間で4,200%のリターンを挙げたという。彼はその後時代の中心はアジアだと感じ、シンガポールに移住している。日本向けなので全体の1/3は日本の状況に費やされているが、中国やロシア、朝鮮半島にも触れていてGlobalな投資家が何に注目しているかがよくわかる。

 

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 まず日本についてだが、品質重視・市民の真摯な姿勢・個人貯蓄率の高さという利点はあるものの、アベノミクスで膨らんだ国家財政の赤字は30年後から日本を窮地に追い込むとしている。今自分が10歳の日本人なら、すぐに外国へ移住すると書いている。また自分が日本の総理大臣だったら、

 

・政府支出の大胆なカット

・関税引き下げと国境の開放

・移民受け入れ拡大

 

 をするだろうとある。

 

 中国については、今世界を支配するに最も近い国だと持ち上げ、独裁体制との批判にも「共産党内で数十年磨かれた優秀な独裁者なら、政治経験のないビジネスマンが大統領になるよりいい」と躱している。ただ、出生率低下・格差の拡大・急激に膨らむ財政赤字が不安材料だとある。それでも彼は中国への投資は止めないし、米中貿易戦争を仕掛けている米国は愚かだと敵視する。その他の国については、インドはまだ国の体を成しておらず、朝鮮半島統一国家は期待できるとして、ロシアも特にウラジオストックなど東方域が投資対象だとある。

 

 人生のスタンスとして示唆に富むのは、

 

・他人が注目していないものに注目せよ

・大きく儲けた直後が危ない。冷却期間を置け

・変化は恐れるな、楽しむべきだ

 

  ということ。特に最後について、AIによってゴールドマンサックスのトレーダーが600人から2人になった例を挙げている。基本的には逆張り思想で成功した人、その心得は本書の中に溢れていました。