新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日米で評価が分かれたスリラー

 本書は1975年に米国で発表された軍事スリラー、作者のルシアン・ネイハムパイロットライセンスを持つジャーナリストで、結局小説はこの1冊しか残さなかった。解説によると6ヵ国語に翻訳されたとかスティーブ・マックィーン主演で映画化の企画があるなどと景気のいい言葉が並んでいるが、米国自体ではほとんど評価をされていない。しかし日本では、週刊文春の1977年度ミステリーTOP10に選ばれるなど、両国で評価の分かれた作品である。

 

 実際、社会人になったころ読んで結構感動し、大学の恩師と呑んでいて本書を勧めた。しかし次に会った時「面白くなかった」と言われたことがある。読者個人でも評価の分かれる作品だったのかもしれない。

 

 時代はベトナム戦争末期、米空軍は新鋭戦闘爆撃機TX75Eまで繰り出して北爆を続けていた。この架空の機体は、ハリアーのように垂直離着陸ができる上に10時間の滞空時間を誇る。もちろん兵装もミサイル・ロケット弾・30mmm機関砲と十分で電子戦能力も高い。これをパイロット一人で操縦できるのが強みだ。

 

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 ある人物が本機を使ってハイジャックをすることを計画し、香港で特殊な船を発注する。平底の輸送船だが、船体内にTX75Eを格納でき、燃料タンク等も備えているもの。彼はそれを受領すると、パラセル諸島の一角に配備した。彼の指示を受けたTX75Eバンパイア戦隊のグラント大尉は、北爆中に撃墜されたことを装い機をパラセル諸島の船に「着艦」させる。大尉はレジャー船を偽装したこの船で、太平洋を渡りメキシコ西海岸で作戦開始を待った。

 

 彼らが狙っていたのはロサンゼルス発ホノルル行きのB747、この機が離陸するや「シャドー81」を名乗るTX75Eはこれの後方に付けハイジャックを宣言する。「シャドー81」は周辺からすべての航空機、船舶を追い払い脅威がなくなったと見るや身代金の要求を始めた。通常ハイジャッカーは機内にいるので交渉もしやすいが、真後ろに付かれて姿も見えない敵にB747パイロットも空港の管制官もなすすべがない。

 

 僕の感想では、ち密に仕組まれた犯行と幾多のトラブルを経ながら「身代金」を奪う手口は称賛されるべきだ。空軍大尉らが犯罪を企画するということで当局が(売らないように)圧力をかけたのかもしれない。久しぶりに読んで、名作であると認識しなおしました。