年末に塩野七生著「日本人へ~リーダー論」を読んで、ああこの人もローマ帝国初期の「小さな政府」を理想とする人だと改めて感じた。来年度予算が106兆円を超えるなど日本がどんどん大きな政府に向かっていくのを、僕は呆然と見送っているだけだ。一方で「公助」が足りないとメディアが絶叫し続けているのは、僕には悪夢としか思えない。
ある政治討論番組で野党の国会議員がある論客を評して、「彼の思想はマキャベリなんです。ローマ帝国初期の小さな政府・独裁政府を標榜しているのです」と言っていたので、マキャベリの名前を思い出した。いや正確に言えば、塩野さんの本を読んで、著者が何度もマキャベリの言葉を引用していたのが最初のきっかけだろう。
そこで本棚の奥から本書を取り出してきて再読した。著者唐津一は戦中兵器開発に関わったエンジニア、戦後電電公社や松下電器で活躍し、産業界のご意見番になった人。初版は1964年で1995年に文庫版で再版されたのを、40歳ごろ古書店で買った記憶がある。昨日紹介した「スパイのためのハンドブック」が、個人がどうやって組織の中で生きるかの教本なら、本書は組織を率いることになった僕のための教本だった。
本書はマキャベリの「君主論」のエッセンスに、著者が日本企業の事例などを加えたもの。特に印象に残ったフレーズを挙げると、
■賢者を選び、その者だけに直言の自由を与えよ。
愚者の意見はむしろ害毒ということ。SNSの氾濫などその顕著な例だろう。
■よい助言は誰のものかは別にして、君主の英知からのみ生まれる。
良い助言かそうでないかをスクリーニングできなくてはいけないということ。
■君主の頭脳はその側近を見れば分かる。
いろいろな意味で「人を見る目」を養う必要があるということ。
■才能や運より、狡獪で如才ないことが必要である。
これにはずいぶん考えさせられたし、どうやったら狡猾で老獪になれるか悩んだ。
■善行は悪行と同じく人の憎悪を招く。
40歳くらいではこの意味を理解できず、今ならなんとなくわかるかな?
■自分より優勢なものと同盟してはならない。
これはよく分かる。合従連衡の鉄則だね。
■迫害は一度で済ませ、恩恵は少しづつ与えよ。
これも統治の鉄則。
■君主は故意に敵を作り、これを打ち滅ぼさねばならぬ。
・・・
会社生活の後半に役に立ってくれた本です。とても完遂できませんでしたけれどね。