新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

組織で生き延びるための聖書

 以前ウォルフガング・ロッツの自伝「シャンペン・スパイ」を紹介しているが、彼はモサドの実在した大物スパイである。その紹介文の中にも本書にある「スパイの適格性テスト」のことを書いたのだが、今日はその書「スパイのためのハンドブック」をご紹介しよう。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/05/27/000000

 

 ロッツの活躍やエジプトで有罪判決を受ける経緯については「シャンペン・スパイ」を参照していただくとして、本書の方はまだ30歳前だった僕に少なからぬ衝撃と知恵を与えた「聖書」のようなものだ。

 

 冒頭、「スパイになりたい動機は何か? 冒険・金・理想」のような3~5択質問が10並んでいる。主に考え方を問うもので、体力や武器の技量などは質問項目にない。ふたを開けてみると点数が非常に高く、僕は「利己的で無節操、卑劣な人だ」とあって、プロのスパイとして生き残れる公算は高いが、人望に欠け責任ある地位を任されるかには疑問があると評されていた。

 

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 さらに続けて「スパイになるための面接にどう対処するか」が書いてあって、

 

・時間を守り、服装は小ざっぱりで華美になりすぎず。

・質問には正直に答えるが、簡潔に。相手に情報を与えすぎるな。

・挑発的な質問がきても取り乱すな。逆に質問で返すことをためらうな。

・熱心になりすぎるな。詳細がわかるまで最終決定は保留すること。

・金目当てと思われてはいけないが、金の話は必ずすること。

 

 などとアドバイスが並んでいる。就職試験には間に合わなかったが、いいヒントを貰ったと思った。ロッツは自分の経験をもとに、潜入している組織の見つめ方や自分の置かれた位置の確認方法を説明している。いわゆるスパイ小説には出てこないノウハウだ。ものの隠し方(同時に探し方)や暗号の使い方などは、のちにサイバー空間での仕事でも役に立った。

 

 大きな企業は複雑な組織を持っている。一つの会社の中でも敵対関係かそれに近いものはある。自分が次にどの組織に行けばどう役に立つか考え続けて、「社内転職」は何度もした。その時、上記面接のノウハウを生かしたことは言うまでもない。

 

 もちろん「利己的・無節操・卑劣」と評されたことは心に刻み、研鑽もしましたよ。結果としてなんとか定年過ぎても生き延びていられます。本書が僕の「聖書」たるゆえんです。