新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

読んでから振るか、振ってから読むか

 本書は以前「海から見た日本の防衛」を紹介した、松村劭元陸将補の初心者向けの軍事解説書。表紙にビデオゲームのイラストが描かれているが、決して軽めの読み物ではない。発表は1995年で、家庭用ビデオゲームが大流行し、その中には「大戦略」などシミュレーション・ウォーゲームも含まれていた。もちろん僕はそれ以前に、アバロンヒル社などの本格的なボードゲームの虜だったのだが。

 

 俗に企業戦略などというが、その実態は「戦術級」のものがほとんどだ。筆者は「初心者向けの分かりやすい戦術教本、演習付き」という出版社のリクエストを受けて、本書を執筆したのだが、読者をゲームの世界に限ったわけではない。ビジネスマンの戦術感覚を養うにも適当なように、いくつかの工夫を施している。

 

 僕が一番興味を惹かれたのは、指揮官が任務遂行に当たって表明する「指針」。それには、5つの鉄則があるという。

 

1)自分の個性に合わないものは言わない。

2)形容詞、副詞は使わない。

3)自身の状況認識を、なるべく詳しく語る。

4)今回連携する他部署への配慮を含める。

5)初陣の部隊や直前の戦闘で痛手を負った部隊に配慮する。

 

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 これらは、僕自身が小規模なプロジェクトを始める時、またその大きな節目に当たって無意識に話していたことに通じるものがある。そういう意味で、本書はビジネスリーダーに十分役に立つ書でもある。本書には4つの演習問題があって、

 

・基本的な演習

・「中川盆地」における戦闘

・Q島における結城分隊の戦闘

・Q島における三鷹戦闘団の戦闘

 

 を読者は体験できる。基本演習では、主攻と助攻の位置関係や迂回機動のあり方などを学ぶ。次に実践として、盆地の両端から進撃する両軍の指揮(作戦級)の演習がある。次に仮想国Qに国連の治安維持部隊として配備された分隊長として、侵攻してくるZ国軍と対峙する(戦術級)。そしてそれらを総括する意味で、Z国の攻勢を受ける戦闘団長の立場でいくつもの設問に挑むことになる。シミュレーション・ゲームのベテランの僕だが、演習の結果は思ったほどではなかった。感覚としてスケールの違いがあるようだ(といいわけ)。

 

 それにしても高いゲームを買わなくても、難しいルールを読まなくても、コマを切り離すなどの手間を掛けなくても、戦術・作戦の真髄に触れられるのはいいこと。ゲームのサイコロを振る前に読むか、読んでからサイコロを持つかの選択ですね。